バレンタイン・キッス
2011/03/01 Tue
m25
「中身は何でしょうか?」
「……食品です」
「冷凍で宜しいですか?」
「……はい」
「では、あて先はどこにしましょうか?」
「………………っ」
「――……若?」
アーデルハイドの声が止まってしまうと、読みやすい右上がりの文字もピタリと止まり、オズワルドはおもむろに顔を上げた。
サングラス越しの赤い視界に狼狽えるようなアーデルハイドの顔が映る。
じんわりと首筋に汗をかき、眉間に皺を寄せながら困った顔をしている。
ふとした瞬間、アーデルハイドの眦に朱色がサッと走り抜ける。
「……オズさんにです。オズさんにと、荷物を頼まれたんです」
「……………私に……?」
今ひとたび、アーデルハイドの名を紡ごうとしていたオズワルドは、先に言葉を被せられてしまい、首を捻った。
アーデルハイドは努めて襤褸を出さないように、気を付けながら声を発することなく神妙な面持ちで首肯する。押した念ごと肯定されて、オズワルドは珍しくサングラスの奥で切れ長の瞳を瞬かせてみせた。
首を捻ったまま、無言で手の中にある小箱とアーデルハイドの顔を見比べ、おもむろに口を開く。
「若からですか?」
「ち、違います!!」
さらりと聞くオズワルドへ否定の大声を張り上げる。思わず否定してしまったが、眦を染めていた熱は頬にまで広がっている。
ほぅ。といつもの笑顔で相槌を打つオズワルドは、卓上カレンダーに視線を向けて日付を確認した。物凄くわざとらしく。
「…………」
「…………」
アーデルハイドの眼が虚ろに泳ぐ。真っ直ぐな運送と真逆をいく緩やかな蛇行を伴って。
居心地の悪い沈黙が場を支配し、コチコチと壁に掛かった時計が時を刻む。
もう少しで小箱の中に納められたチョコレートは意味のある贈り物から、オズワルドの一好物に変わる。
こんな居た堪れない思いをしなければいけないなら、早く今日という日が終わってしまえばいいと思った。
自分から踏み出すこともできず、それなのにタイムアップで逃げ切ろうとしている自分が情けなくなり、アーデルハイドは奥歯を噛みしながら顎を引く。しかし、顎が喉にくっつく前にひょいと顔を上げされられた。
視点を合わせると細く長く器用な指がアーデルハイドの顎を捕えていた。
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