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バレンタイン・キッス

2011/03/01 Tue
m25


あるいは単に孫のような存在だと思われていたのかもしれない。
それでも、アーデルハイドがオズワルドと言う人間に、心惹かれるきっかけとしては十分だった。

一度、そういった感情を抱えてしまえば、オズワルドにどんどん惹かれていった。
穏やかな思考も、優しさに裏打ちされた厳しさも、ほんの少し悪戯っぽいところも、意識してしまえば胸の高鳴りが抑えられなかった。
まるで子供のようだと自分を叱咤しながらも、自分を鍛えることに忙しく、年相応の恋愛に免疫のないアーデルハイドは自分の感情を持て余した。
別に付き合いたいだとか、傍に居たいとか、大それた夢想をしているわけではない。
そんな風に並んでいる自分たちは想像できなかったし、何よりオズワルドが靡いてくれる―――いや、そもそも対等と見てくれるとは毛頭思えなかった。
きっとこの感情を告げても、オズワルドはあまり狼狽えず、そうですか。と相槌を打った後、若さゆえの気の迷いにして聞かなかったことくらいにはするはずだ。
土台からして違うのだから仕方ないとしても、オズワルドはあまりに大人だった。
正攻法は失敗一直線ルートであるのは重々承知の上だ。
オズワルドがトリッキーながらも堅実なのは、戦闘スタイルだけではない。

しかし、それでも。

「なぜ、私はチョコレートを用意しているのだろう…」

こみ上げてくる情けなさと羞恥心を隠すためにわざと自虐的に口にしてみるも、単に現状を自覚するだけで何の慰みにもならない。
正攻法では上手くいかないどころか、妙齢の女性をお似合いの相手として紹介されそうなほど老獪な相手に、こともあろうかバレンタインデーにチョコレートと言うベタさである。
けれど、菓子業界の陰謀が渦巻く日だったとしても、チョコレートはオズワルドの好物なのだ。
実際にオズワルド自身の口から聞いたことは無かったが、得意先から貰ったチョコレート菓子を噛みしめるようにゆっくりと食べていたのを知っている。
それに、バレンタインデーを直前に控え、沸き立つ女子社員達にオズさんは何のチョコが好きですか?と聞かれていたのを思い出す。
普段なら、丁重に断るはずの紳士は、一瞬嬉しそうにサングラス越しの瞳を細めて『頂けるのであれば、どんなものでも歓迎いたしますよ』と穏やかな声で告げていたのだ。

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[Serene Bach 2.23R]