バレンタイン・キッス
2011/03/01 Tue
m25
若さを悔やんだり、夕日に向かってバカヤローと叫びたくなったり、夜も眠れないような恋に落ちたりもする。
苦しい胸を押さえつけて、ひたすら素数を数えていたら夜が明けてしまったのは一度や二度ではない。
しかもその恋はただ苦しいだけでなく、絶対に適わないと言う自信があった。
悲しい自信だが、この恋が成就するとは到底思えず、またそんな未来をイメージすることすら出来ない。
アーデルハイドの人生と、ルガール運送の社運と、このカシオミニを賭けたって良い。
なぜなら迂闊にもどっぷりと惚れ込んでしまったのは、父の古い友人であり、ルガール運送の古参であり、社を支える影の功労者であるオズワルドなのだ。
同性の上に激しい年齢差と父親の友人と言う重すぎる三重苦が、ズシリとアーデルハイドの双肩を軋ませる。
そもそもからかい交じりに「若」と呼ばれる程度にしか思われていないのだ。
何時の間にベリーハードモードを選択したのかと自問自答したくなってしまう。
無理ゲーってレベルじゃねーぞ!と脳内で本音がリフレインする。
最初は格好いいだとか、スタイリッシュだとか、そんな印象を抱いていた。
そんな憧れにも似た感情が、恋愛感情に移行したのは、父の仕事を受け継いで直ぐの頃だったと思う。
ああ見えて、決断力とバイタリティ溢れる父は会社運営に置いても天才的だったらしく、そっくりそのまま社長のイスをポンと渡されて、アーデルハイドは分かりやすく焦った。
何せ、明らかに自分一人で処理しきれる量ではない仕事が徒党をなして襲ってくるのだ。
かなり豪快強引にゴリ押しして最後に帳尻を合わせると何故か黒字といった、ルガールの運営方針を慎重で堅実なアーデルハイドが真似できるわけもなく、当然のように行き詰った。
それまでも会社運営については学んできたつもりであったが、非常識の上に整ってしまった体制と、先代社長とのあまりの方針の違いにアーデルハイドは心を何度も折られかけた。
そんな時、未熟な二代目社長であった自分をそっと支えてくれたのがオズワルドだった。
アーデルハイドが生まれる前からルガールと交友があったと言う紳士は、そつなく、それでいてアーデルハイドをコンプレックスの海に沈めることもなく、アーデルハイドなりの経営を確立する手伝いをしてくれた。
オズワルドからしてみれば、古馴染みの息子が困っている程度のものだったのかもしれない。
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