指先の駆け引き
2011/01/02 Sun
m25
オズワルドが首を傾げながら振り返れば、ジェネラルが上体を起こしていた。
乱された軍服を申し訳程度に羽織っているものの、傷だらけの肌には朱印が幾つも散らされている。
自分でやったことながら、朱印の多さに微苦笑が漏れた。
その笑みを見たジェネラルは羞恥を誤魔化すように目に力を込めて口を開いた。
「―――出掛けるのか」
「ええ。ピークは過ぎましたが、まだ残ってますので」
「そうか。……気をつけて」
実際は、まだずっと忙しいのだろう。
それなのに、昨夜は睡眠時間を削らせてまで付き合わせてしまったのだと思えば、一層居たたまれなかった。
ジェネラルはこみ上げてくる自己嫌悪と羞恥をなんとか殺すと、差し障りのない言葉を紡ぐ。
「はい、閣下もしっかりお休みくださいね」
「………?」
さらり、とオズワルドから返された言葉に、ジェネラルは小さく疑問符を飛ばした。
ジェネラルとて今日も仕事ではあるが、昼前に出掛けて、夕方頃には帰宅予定だった。
だから、オズワルドに言われずともゆっくりと休めるのだが、それを合えて口にする意図が分からない。
無論、気遣いには変わりないので、ジェネラルは腑に落ちないながらも首を縦に振って了解を示した。
「分かった。言葉に甘えるとしよう」
そう口にすると、オズワルドがにこ、と顔に笑みを敷いた。
その笑みには、ポーカーフェイスの気配以上に、もっと性質の悪いものが見え隠れしており、ジェネラルの背を危険信号が駆け抜ける。
ジェネラルに走ったある種の緊張に気づいているのかいないのか、オズワルドは笑みを深めながら手にした帽子で笑みを刻んだ口元を隠した。
「――――ああ、それともう一つ」
笑みを湛える口元が隠れると、赤いグラスに阻まれた瞳が強調される。
声も口も笑みを含んでいるが、その瞳に笑みはなく、あるのはただ強い光だけだった。
その光に射抜かれ、ジェネラルの肩が僅かに跳ねた。
「今夜は早く帰ってきますので――――お覚悟を」
オズワルドはそう言い残すと、ひらり、と手を振り、表面上は裏のない笑顔で寝室を後にした。
残されたジェネラルは、数度その言葉を反芻した後、再びシーツの海へと沈んでいく。
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