パンドラの切り札
2010/12/15 Wed
m25
溜息を隠そうともせず、指先で持ち上げた枕をシーツの海へ返してオズワルドは眉根を寄せた。
見つけ出したのはモノクロのピエロ、何の変哲もないただのトランプだが、オズワルドにとっては大切な商売道具だ。
しかし、その命を預けるパートナーですら、オズワルドを笑っているようにも見えてしまう。
荒んだ内心を隠蔽するように、サングラス越しの視線を時計に向けて、タイムリミットを確かめた。
「……一時には出ないと間に合いませんね」
一人ごちながら、カードを器用な長い指で弄ぶ。
昨夜は明け方まで起きていたので、活動時間は自ずと短くなってしまっていた。
原因は自分の若さか、奔放さか。何はともあれ、グスタフだけに責任を求める気にはなれなくて目を細める。
長針は真下、短針は正午を超えて一時まであと半分の道のり。
本日は二時からトーナメントのスケジュール。一時間前には受付を済ませなければいけないのだ。
オズワルドが勤めるルガール運送は特にトーナメント支援に力を入れており、大会が平日とかち合えば公休として処理される。
いわば半分仕事扱いであるため、遅刻はどうしても避けたい。が、長年連れ添った獲物が見当たらない。
オズワルドは何度目かも分からないほど重い溜息を吐き出して、見つけ出したピエロをテーブルの上に無造作に放る。
こんなことをするのはオズワルドにとって因縁深き腐れ縁相手であり、昨夜一晩一緒に居た相手――グスタフ・ミュンヒハウゼンだけだ。
明け方まで戯言の様な時を重ねたが、昼前に目を覚ますと隣はもぬけの殻になっていた。
挨拶もなしに気配を殺しきって、オズワルドの傍から離れていくのは何時ものことである。
それだけなら珍しくもなんともないのだが、今回は更にオズワルドの大切なカードまで何処かに隠してしまったのだから始末に悪い。
最初はただの嫌がらせかと思い、グスタフが持ち去ったかと考えていたが、愛用の革手袋の下からクラブの7を見つけて固まった。
「スペードのJはカレンダーの裏、ダイヤの4は紅茶缶の中……さて、あと一枚」
ペン立ての中、時計の裏、冷蔵庫の上、読みかけの本の間、コートのポケット、鍵をかけている筈の引き出しの中……見つからなさそうで、案外見つかる場所を意識して隠されたカードたち。
中でも、もう少しで完成するはずのボトルシップの中に放り込まれていたダイヤのKには、こめかみを引き攣らせた。
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