カタストロフィ
2010/08/27 Fri
m25
不意に声を掛けられて、オニワルドは飛んでいた意識を引き戻し、隣のオロチへ何食わぬ顔で返す。
オロチは常と変らぬオニワルドの顔と態度に安心したようにモニターに視線を戻した。
壁に掛けられたモニターの中では金髪の幼女が楽しそうに戦っている。
それを見つめるオロチの横顔は幼女の身を案じながらも、どこか高揚した人間臭い表情をしていた。
微笑ましいと胸の内でこっそり思いながら、オニワルドもモニターに視線を向ける。
控え室に掛けられている中継モニターは特大サイズではあるが、今は絶え間なく発光している。
このクラスでは良く見る光景だ、本当なら観客席で見たかったのだが、
生憎オロチもオニワルドもこの後に試合が控えている。
モニターに映るのはイグニスアンノウン、通称イグのんと呼ばれる少女である。
変動の激しいこの界隈でも古くから神の国に坐す無慈悲な女王であり――、
―――隣でモニターを真剣な眼差しで見つめるオロチの妻でもある。
その余りの集中ぶりにオニワルドはふ、と吐息のような笑気を漏らす。
「彼女は負けませんよ」
「―――…分かっている」
それなのに目が離せないらしい。
最も、その気持ちはオニワルドにも良く分かる。
絶対に負けないだろうと思っていても、気になるものだ。
古い付き合いであるイグのんの実力はオニワルドも重々承知している。
昔はともかく、今は隣にいるオロチもイグのんもオニワルドでは歯が立たないほど強くなっている。
それでも視線で追いかけ、安否が気になるのは本能の管轄なので致し方ない。
オニワルド自身では、如何にも出来ないことなのだ。
まるで中てられた振りをしてオニワルドは息を吐き出しながら、
ソファに背中を沈めて、斜め後ろからオロチを眺める。
再会の饗宴はオニワルドの敗北で幕を閉じた。
一度も膝を付かなかったし、タイムアップのコールを聞いた時も、
真正面からオロチと対峙していたが、それでも倒しきれなかったのだから負けは負けだ。
判定にもつれ込んだとはいえ、勝ち負けには拘っていなかった。
だが、オニワルドはとても悔しかった。
負けたことが、ではなく、彼との戦いが終わってしまったことがだ。
出来るなら時など止めて、決して進まぬ一秒の中で永遠に戦っていたかった。
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