誰がために終業ベルは鳴る
2010/11/03 Wed
m25
こうなると、正確な時間を確認するのも億劫になってくる。
クローンゼロは眠気覚ましに用意していたコーヒーを喉へと流し込んだ。
一夜をクローンゼロと共に明かしたコーヒーは冷え切っていたが、霞掛かる意識を繋ぎとめることに貢献した。
ギシギシと軋む身体を椅子から持ち上げ、そのまま腕を伸ばすと肩が鳴った。
「―――…チッ」
腹へと落ちるカフェインは眠気に抵抗し、意識を保つことに一役買っているが、同時に頭痛を助長させてもいる。
クローンゼロは眉間に盛大な皺を刻むと、舌を打った。
大股で執務室の扉へと向かい、ポールハンガーに乱雑に掛けている黒いロングコートを羽織るとそのまま扉を潜る。
夜間照明から昼間照明へと移行する時間帯ということもあり、廊下は薄暗く、酷く現実味のない色をしていた。
頭痛と相まって、その不可思議さがクローンゼロの足を僅かにふらつかせた。
しかし、すぐさまそれを叱咤するように頭を振ると、努めてしっかりした歩調でエレベーターホールへと進む。
どうせ誰も居ないのだから、と意識は囁くものの、本能が弱みを晒すことを禁じているのだ。
それはクローンゼロが持つ矜持であり意地だった。
痛みと吐き気で視界が点滅と色彩の混濁を繰り返しながらも、常と同じようにエレベーターをボタン一つで呼び寄せて、エントランスへと降下する。
不調な身には、独特の浮遊感すら毒で、静かに痛苦に彩られた吐息を漏らした。
閉鎖された四角い箱に背を預け、じっと到着を待っているクローンゼロの耳に、鋭いベルの音が届き、無意識に閉じていた瞼を押し上げる。
エレベーターの鉄扉は左右に開き、ガラス張りで高い吹き抜けのエントランスが視界に広がった。
クローンゼロは預けていた背を離し、微かに足音を鳴らしながら真っ直ぐに自動ドアへと歩を進めた。
「―――……」
しかし、不意にクローンゼロの歩みが止まる。
首を僅かに巡らせ、エントランス中央から背を向けるように設置された、簡易的な休憩所へと視線を投げた。
一人掛けのソファが幾つか置かれているその場所は、日中ならまだしも、朝日すら昇っていない早朝に腰掛ける者など居るはずもない。
けれど。
「―――…何をしている」
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