誰がために終業ベルは鳴る
2010/11/03 Wed
m25
他者へ弱みを見せることを嫌い、なおかつ趣味を仕事と言い切るクローンゼロに仕事を与えればどうなるかなど、
イグニスはオリジナルゼロが言わずとも熟知しているだろう。
むしろ、熟知しているからこそクローンゼロに回したのだとも思うのだが、余り褒められた手口ではない。
とりあえず明日出社したら一言進言しなければ、と、心中で呟くと、クローンゼロが酷く面倒くさそうに片手を払った。
それは、傍目から見れば虫を払うように無礼な行動に取れただろうが、
クローンゼロの顔色の悪さを知っているオリジナルゼロからは、声を出すのも辛いのだろうと判断した。
「一人で出来る量じゃないだろう」
「余計な世話だ。さっさと帰れ」
「だが」
更に言葉を続けようとしたオリジナルゼロの声を、クローンゼロの壮絶な視線が遮った。
殺意と敵意を絶妙にブレンドした視線は鋭く、それ以上を口にしたら死闘が幕を開けるだろうと想像がついた。
今まで書類に向いていた顔が上がったことで、クローンゼロの顔色の悪さを改めて感じてしまう。
本当のところ、オリジナルゼロ以上に疲れているだろうに、それを表面化させまいとしている。
その姿に言葉は喉奥で止まってしまった。
クローンゼロは向けられる言葉の全てを悪い方へと取ってしまうが、オリジナルゼロは決して侮辱したいわけでも能力を過小評価しているわけでもない。
心配しているだけ、気に掛けているだけ、という善意や好意を理解出来ない上に、信用していないのだ。
オリジナルゼロは小さく息を吐くと、諦めたように口を開いた。
「―――……一人で出来るのだな?」
「何度も言わせるな」
「……分かった」
オリジナルゼロは短い挨拶を残して退室した。
扉を閉める間際に室内へと視線を投げれば、既にクローンゼロの意識は手元の書類に移っていた。
オリジナルゼロは、それがクローンゼロなのだと理解していながら、その不器用さに肩を竦めた。
「……相変わらず、難儀な男だ……」
室内のクローンゼロを気遣い、声は控えめで、殆ど吐息に近い。
オリジナルゼロは軽く首を振ると、当初の目的地であるエレベーターホールへと足を向けたのだった。
昨日未明から続く頭痛に悩まされながら、それでも諾々と仕事をこなし、漸く目処がたったのは空が薄っすらと白ばむ時間帯だった。
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