誰がために終業ベルは鳴る
2010/11/03 Wed
m25
そんな中、煌々と明かりが灯された部屋は一つだけ。
オリジナルゼロは首を傾げる事もせず、ゆったりとした歩みで闇の中へと入っていった。
軽いノックと同時に扉を開くと、想像した通りの人物が、想像以上の書類の山を切り崩しに掛かっていた。
ノックの音にもオリジナルゼロの気配にも気付いているだろうに、
クローンゼロは顔を上げる時間すら惜しむかのように黙々と書類を処理し続けている。
オリジナルゼロは繁々と書類の山を眺め、次いで、クローンゼロへと視線を向けた。
当然、視線は交わることなく、クローンゼロの視線は書類が独占したままだったが、気にせず口を開いた。
「私の分は片付いた。手伝おう」
「いらん。帰れ」
善意の言葉は短い拒絶で叩き落とされる。
何時ものように棘だらけの声ではあるが、何処か勢いがない。
顔を伏せていることで分かり辛いながら、顔色を伺うと僅かに青い。
オリジナルゼロは微かに顔を顰めると、小さく肩を竦めてみせた。
「仕事の速いお前がそこまで溜めるほどの案件など、私は知らんぞ」
「フン。だろうな」
賛辞に対しても棘は健在だ。しかし、オリジナルゼロの言葉に偽りはない。
辛辣な物言いと横柄な態度で小物に見られがちではあるものの、その仕事の速さと正確さはオリジナルゼロに匹敵する。
オリジナルゼロとクローンゼロの双肩によってネスツは支えられていると言っても過言ではない。
それ故に、両者の仕事内容はリンクしていることがしばしばで、互いがどんな案件に携わっているかはリアルタイムで把握していることが常だった。
けれど、オリジナルゼロが把握している限り、クローンゼロが体調不良を推してまで進めねばならない緊急性の高い案件はないはずである。
疑問を問いとして尋ねれば、皮肉そうな笑みを口元に湛えながら、クローンゼロが書類の山を片手で叩く。
「定時に上がろうとしたら、あの男が押し付けていった」
「…………」
クローンゼロの忌々しそうな声と言葉に、オリジナルゼロは思わず瞠目した。
直属の上司であり、ネスツの最高責任者を『あの男』呼ばわりした事を嗜めねばならないものの、毒を吐きたい気持ちは良く分かる。
来たるべきトーナメントに備え、膨大な量の書類がイグニスの襲ったのは事実だが、それを丸々部下へ押し付けるのはどうなのか。
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