祭祀様は甘くない
2010/10/27 Wed
m25
「まさか、貴方がお菓子作りまで出来るとは思いませんでした。レアスも驚いていましたよ」
「祭祀様がお困りとあれば、容易いことです。製菓などで宜しければ、幾らでも」
「そうですか、小さな信者達にも好評だったので、また頼むかもしれません」
「畏まりました」
グスタフが用意したお菓子は全て、ゲーニッツの手から魔女にドラキュラ、狼男にかぼちゃお化け等など色々な仮装をした子供たちに配られていった。
かなり沢山作られていたが、ゲーニッツが持つ二つのバスケットの中は空っぽだ。
確かにこんがりと焼けたマドレーヌはバターと玉子が良く混ざった甘い香りがして、甘いものに興味がないゲーニッツから見ても、非常に美味しそうだった。
空のバスケットから、恭しく頭を下げるグスタフの旋毛に視線を移動させ、献身的な従者に瞳を細める。
手にしているバスケットの残り香より強く、グスタフからはバニラビーンズの香りがした。
「ところで、グスタフ」
「………はっ」
ゲーニッツは何食わぬ顔でグスタフを呼ぶと、左手は腰に添えたまま、ひらひらと右手を振って傍らへ手招いた。
意図が汲み取れないものの、ゲーニッツの下命に逆らう気などさらさら無くグスタフは大人しくオーナメントの箱から離れてゲーニッツへと近づく。
目の前まで移動すれば、僅かな高低差から顎を持ち上げて同種の証である縦長の瞳孔を覗きこむ。
ひらめかせいた手はゆっくりと下がり、グスタフの目の前で掌を上に向けたまま静止した。
やはり、意味の知れないグスタフは首を捻りかけるが、ゲーニッツがにっこりと、―――それは、それは、綺麗に笑ったのを見て、ゾッと野生の勘が首裏を駆け抜ける。
そして、その直感は直ぐに、ゲーニッツの言葉によって裏打ちされた。
「Trick or Treat」
「―――ッ」
言葉を聞いた瞬間にグスタフは己の詰めの甘さを悔いた。
ほとんど反射的にスーツのポケットを押さえて中身を確かめるが、当然、ゲーニッツを満足させられるようなお菓子など持っているはずもない。
あるのはグスタフに纏わりつく、甘い香りだけ。
「悪戯されたくなければ、甘いお菓子を頂けますか。グスタフ?」
「それは…、」
「ああ、甘い香りの貴方がお菓子代わりになると言う事でも良いですよ」
[7] << [9] >>
-
-
<< Little by little
黒龍の優雅な晩餐 >>
[0] [top]