祭祀様は甘くない
2010/10/27 Wed
m25
相変わらずの手際の良さで、使う前より綺麗にキッチンを片付けると、腕時計に視線を落とした。
「9時半か…」
ハンカチで濡れた手を拭い、そろそろ催事は終わった頃だろうか、と当りをつけて聖堂へと足を向ける。
教会の裏手に併設されている牧師館を出て、牧師として慕われているゲーニッツと人当たりの良いレアスが居るはずの聖堂の扉を静かに開いた。
途端、ああ、と耳に心地よい低音が聞こえてくる。
「ご苦労様でした、グスタフ。ちょうど最後の一つを配り終えたところですよ」
「礼には及びません、祭祀様―――…レアスはどちらへ?」
空のバスケットを二つ抱えたゲーニッツに出迎えられて、一礼を返してから視線を巡らせる。
先ほど覗いた時には確かに居たはずなのだが、今はガランとした聖堂内にゲーニッツ一人しかいなかった。
「レアスなら友達が最後に来て、遊びに行きましたよ。本人は遠慮していたようですが、年相応の友人との付き合いも大切ですからね」
「なるほど。しかし、全て祭祀様に任せて行くとは……」
「構いませんよ、殆どの片付けは済ませてから行きましたから」
言われて視線を巡らせれば、教会内を彩っていたオーナメントは既に外されており、来年のために綺麗に箱に戻されていた。
恐らく、レアスだけでなく、友達とやらも手伝ったのだろう、二人だけで済ませたとは思えない手際の良さだった。
「それにしても、お陰で助かりましたよ」
言われるより先に倉庫にしまいこもうと、オーナメントの箱に手を伸ばしたグスタフは何気なく向けられる礼に動きを止めた。
ゲーニッツにとっては極当たり前の、礼以上の意味など微塵もない言葉だったが、グスタフにとっては休日返上で尽くした甲斐を見出せるほどの代物だった。
敬愛する一族の導き手の役に立つことができ、そのうえ、感謝の言葉まで頂けるなど、至福以外の何物でもない。
グスタフはオーナメントの箱に伸ばしていた手を下げて、胸元に己の手を宛がい、さらりとした黒髪を揺らした。
「祭祀様のお力になれたのなら、それ以上の僥倖はありません」
嘘偽らざる本音を吐いて、双眸を撓めながらその幸せを噛みしめる。
尽くすことこそ最上の喜びです、と言わんばかりのグスタフの態度に、ゲーニッツは密やかな笑みをこぼしてバスケットを抱え直す。
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