Little by little
2010/10/26 Tue
m25
オロチも大変だな、と立場的には似通っている一族の長に同情しつつ、咳払いを挟んでヨハンはグスタフに向き直った。
「お前ら良いから文通しろ」
「交換日記ならしている」
「………」
もう、おれかえっちゃだめかな。
脳内を虚無が占めて、現実逃避しかけて、赤い髪を緩く振るとカップをソーサ―に戻して額を押えた。
グスタフが考えるほど現実が上手くいかないにしても、眼の前の男は恵まれた体格と顔貌をしている。
手慣れていないはずはないのだ。どうせ、若い頃は相当遊んでいたに違いない。
ある種偏見的なイメージをグスタフに押し付けるも、恋をするとオロチ一族も人間も大差無いのだと思い知る。
―――ただ、愛する人を、愛しく想いすぎると言う、ただそれだけなのだろう。
人の感覚から遠くにいるヨハンはそんなふうに、いや、そこまで誰かだけを想う恋をしたことはない。
だから、グスタフの心情だとか機微などまるでわからない。
欲しいなら無理やりにでも奪って、手中に収めてしまえばそれで良いのではないか。と支配的な本能が囁く。
グスタフのように真綿で包んで、 ただただ愛しみ、崇拝し、自らの全てを―――、
―――…それこそ、本能たる欲望すらも捧げて尽くすなど、したことがないし、したいとも思えない。
それでも眼の前の男は可哀そうなほどに真剣だ。
何時もからかい、愛しの祭祀様とタッグを組んでいる憎き自分に相談しにくるほど。
彼は真剣に、吹き荒ぶ風を心の底から愛してるのだろう。
いっそ、愚かしいほど真剣に。
「―――……そうだな、」
チラ、と視線を投げて、グスタフの縦長の瞳孔を覗き込む。
剣呑な癖、迷える羊のような色を湛えた瞳を確かめ、その後で逃すように扉に視線を向けた。
視線を逸らされたグスタフは何事か言おうとしたが、先にヨハンが切り出した。
「それで結局、貴様はどうしたいのだ」
ストレートに問われたグスタフはグッと僅かに息を詰めてみせる。
言葉が見つからないのか、決心がつかないのか、グスタフは長い沈黙を置いた。
幾度かグスタフの唇が開いては閉じる。沈黙は雄弁にして、心地良い。
ヨハンが三枚目のクッキーを飲みこむと、決然としたようにポットを卓において低い声を漏らし始めた。
「……差し出がましくも、不相応な望みだが…、私は…」
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