深夜過ぎたら逢いましょう
2010/10/21 Thu
m25
「何か、お気に障ることをいたしましたでしょうか…?」
「―――いえ、単に夢見が悪かっただけですよ」
まさか、貴方に犯される夢を見た、など言えるわけもなく、ゲーニッツは言葉を濁して首を振る。
このままでは要らぬことを口走ってしまいそうだと、努めて平静を保ちながら、手を払って退室を促した。
「着替えますので、お茶を淹れておいてくれますか?」
「はい。お手伝いは如何いたしましょう」
いつものように続けられた言葉に、刹那の間だけゲーニッツの声が止まる。
グスタフが不審に思う前に口を開くが、視線がグスタフから外れるのは止めようもなかった。
「………いえ、一人で出来ますから結構です」
「畏まりました。今朝の茶葉は何になさいましょう?」
「アールグレイをプレーンでお願いします」
「ご用意してお待ちしております、祭祀様。――…それでは、失礼いたします」
一礼を返して、グスタフの姿が寝室から消える。
ゲーニッツは露骨な反応を咎めるように頬を軽く叩くと、ゆっくりとした動作で寝台から降りた。
今日も朝からトーナメントの出場が決まっているのだ。
いつまでも淫夢ごときに囚われているわけにもいくまい、と思いながらも、
耳にこびりついた卑猥な音は中々忘れられそうになく、ゲーニッツは爽やかな朝にあるまじき溜息を寝室に響かせたのだった。
寝室から退室したグスタフは、そのままの足でキッチンへと向かった。
ケトルをコンロにセットし湯を沸くまでの間を利用して、すでに洗い終わった洗濯物を籠に入れて庭へと出る。
籠の中には青い法衣やシーツ、普段着が混在しており、朝焼けの中で手馴れたように黙々と干していく。
元々量は多くなかった為、すぐに作業は終え、キッチンへと戻ろうと空の籠を持ち上げる。
「………」
僅かに屈んだグスタフの頬に、干されたシーツが触れる。
朝の爽やかな風に煽られ、冷たく濡れた感触が頬に伝わり、グスタフは小さく笑んだ。
するり、と恭しい手つきでシーツを撫ぜると、シーツの端を唇に寄せた。
「―――深夜過ぎたら…また、お逢いいたしましょう…」
呼気に含ませた声はそのまま風に消え、何の名残も残さず霧散する。
グスタフはケトルが鳴く音を聞きながら、キッチンへと足を向けた。
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