サンバ・テンペラード
2010/10/14 Thu
m25
もう、オズワルドが彼にしてやれることは何一つない。
教えるべきは教え、導くべきは導かれた。オズワルドに、この先の道はない。
「―――……」
そう、理解していながら、悔いがある。オズワルドはこの場で死ぬだろう。
今まで弟子として生きてきた彼にとって、オズワルドは最早抹殺すべき人類の一人に成り下がった。
オズワルドの身体を捕らえている銀糸に僅かに力を込めるだけで、この身を分解することなど造作もないのだ。
それ自体には悔いはない。
これまで散々、依頼を受けて屍を築いてきたオズワルドにとって、弟子に殺されるというのは死に方としては上等だ。
老婆心ながら、自らの死が弟子の決意の一つになればそれで良いとさえ思えた。
ただ、
「―――…貴方の先が見れないのは…少し残念ですね……」
弟子の『これから』がどうなるのか、見守れないことだけが心残りだった。
立派に成長し、今夜オズワルドさえも越えた彼に対して思うことではないという自覚はある。
それでも、決して平凡でも平坦でも、まして平穏でもない道を選んだ弟子の行く末を気に病むのは師となった者の権利の内だ。
オズワルドは血が足りなくなってきて、僅かに霞む視界に闇を映した。
月光の中でも塗りつぶしたような黒は見慣れたもので、唇を笑みの形に歪めた。
どうせ最後になるのならば、決して忘れられないような毒を吐いて死のうか、と。
オズワルドが血に濡れた口を開く。
「暗殺者としての貴方は死んだ」
しかし、オズワルドの言葉は音になる前に静かな低音で遮られた。
意味を反芻し、数度瞬いているうちに、その姿は再び闇へと消える。
気が付けば今まで身を縛っていた銀糸さえも跡形もない。
オズワルドはゆっくりと緩慢な動作で身を起こし、力の入らない足で何とか立ち上がる。
「…………」
乱れたスーツもそのままに、月光の満ちる周囲に視線を飛ばし、気配を探る。
想像通りに何の気配も姿も見つけれないでいると、オズワルドは喉を震わせた。
「……く、…くくッ…」
喉だけの震えは肩まで周り、とうとうオズワルドは耐え切れず笑い声を上げた。
片手で口元を隠し、空いた片手では血の止まらない傷を押さえる。
[7] << [9] >>
-
-
<< 温泉郷へようこそ
Darjeeling tea >>
[0] [top]