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サンバ・テンペラード

2010/10/14 Thu
m25


それが堪らなくオズワルドを高揚させた。
喉の奥で笑みを殺し、静かな夜に無音の哄笑が消える。

「上出来です。標的の言葉になど耳を貸すなど愚の骨頂」

オズワルドの磨かれた革靴の底が、固いアスファルトを叩く。
淑女をリードするように、洗練された動きで銀糸をいなしながら一人きりの舞台で踊る。
観客は一人だけでも、オズワルドは満足だった。
確実に急所を狙う性急さと若さを笑い、夜の空気に呼気を混ぜる。

「暗闇から命を刈り取る、誉れなき闇の住人。その姿を見せたが最後、闇は貴方の敵になる」

闇は暗殺者の味方などではないのだ。
ただ、暗殺者が闇を利用しているだけに過ぎない。
闇を過信し、僅かでもその姿を見せれば、闇は容易くその身の陰影を浮かばせる。
オズワルドの言葉に、まるで同意するかのように風が吹いた。
頬を撫ぜる柔らかいそれに呼応して、細い銀糸が煽りを受けて僅かに弛む。
思いがけない微かな歪は紙一重で避け続けていたオズワルドの頬の表皮を傷つけることに成功した。
流れる赤に力を得たのか、銀糸の攻勢が強まる。

「ほら…ね?」

闇を利用せず、月光も元で姿を晒すオズワルドは頬に付いた一筋の傷を指先で触れて血を拭う。
血を流したのは何時ぶりだろう。
暗殺業を離れて久しいオズワルドにとって、それは酷く懐かしいことにも思えた。

「……全てを利用しなさい」

闇は、暗殺者の味方ではない。
身を潜ませてはくれるけれど、それは我が身の安全さえも損なう諸刃の剣。
そう、闇を響かせるようにして囁きながら、オズワルドは心の底からこの時間を楽しんでいた。
こんなにも心が満たされ、楽しいと感じるのは、暗殺者として生きていた頃を忘れていないからに他ならない。
オズワルドは一層笑みを深めると、ふ、と何かに気づいたように視線を足元に落とす。
月光が作り出す影に微かな違和感を覚えたのだ。

「………?」

違和感の正体を探るように避ける合間に視線を空へと向ければ、煌々と光る月があるだけで別段何も変わらない。
僅かに疑問符を浮かべながら、それでも嫌な予感が胸を掠める。
これは、一旦下がって様子を見たほうが良いだろうか。と、オズワルドが月から視線を外した瞬間に、その予感は的中した。

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[Serene Bach 2.23R]