温泉郷へようこそ
2010/10/13 Wed
m25
ヨハンにとっては珍しい香りでも、ゲーニッツにとっては何故か落ち着く香りらしい。
僅かにヨハンの肩に掛かる体重が増した気がした。
室内に足を踏み入れると奥の間には布団が敷いてあった。
大分遅い時間なので仲居が敷いてくれたものなのだろうが、使われた形跡はない。
つまり、ゲーニッツは自分の部屋に寄らず、ヨハンの部屋へと夜這いに来たのだろう。
(………なんだか、妙に気恥ずかしい)
ジワリ、と首筋に熱を伴う汗が浮かぶが、それを誤魔化すように足早にゲーニッツを布団まで運んだ。
怪我のある身を気遣うように静かに横にさせると、ゲーニッツは落ち着いたような息を吐く。
微かに片目を歪めて痛みをやり過ごす顔を見ていると、妙な気分になってくる。
人の形をした人外といえど、痛みも苦しみも感じない身体ではないのだろう。
それを隠蔽し、押し殺すプライドの高さに苦笑が零れる。
「お前な、痛いときくらい痛いって言った方が良いぞ」
今までこっそりと抱えていた恐怖が、まろやかなものに変わっていく。
右手を伸ばして、短い前髪を掻き揚げてやると、金色が揺らめいた。
そのまま覗き込むようにして寝かしつけるように頭を撫でる。
「言いにくいこともあるだろうけど、私も同じラスボスなんだし、それくらい聞かない振りもしてやるさ」
ふふ、と子供を諭すように声をかけてやれば、青い瞳が珍しくそっぽを向いた。
案外、図星だったのかもしれない。
こんな素直なゲーニッツなら怖くない、と思いながら、ヨハンはよしよしと額を撫でる。
「…………なんですか、その顔は」
優しく額を撫でるヨハンの手首に手を添えて、不満げな声を漏らした。
やんわりと手首を握りこまれると、反射的に恐怖を覚えるが、
ゲーニッツが手負いだと言うことと、意外な姿を見れたお陰で取り乱しはしなかった。
「いや、……今日はもう、大人しく寝ていろ。ゲーニッツ」
「…………」
ポンポン、と空いている片手でゲーニッツの腹に布団を掛けて、撫でてやるが、
ゲーニッツはヨハンの手を離さなかった。むしろ、力は強まった。
「貴方と同じラスボスだと言うのなら、これくらいの怪我がなんともないことくらい知っているでしょう」
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