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温泉郷へようこそ

2010/10/13 Wed
m25


ヨハンはゲーニッツに恐怖心を抱いているが、決して憎んでいる訳でも嫌っている訳でもない。
寧ろ、その力は信頼しているし、自分にさえ関わらなければ割と常識人であるのも知っていた。
だから、負傷しているらしい脇腹を掌で強く押さえているゲーニッツの姿を見て、
軽い溜息を吐き、そっと腕を伸ばして、断りなくゲーニッツの肩を抱えた。
ゲーニッツは逃げずに手を貸してくるヨハンへ一瞬驚いた顔をしたが、
ヨハンはヨハンで、どうしてもこみ上げてくる恐怖を抑えつけるのに忙しい。

「……今日だけだからな、大人しくしてろよ」

震えそうになる声で釘を刺し、体格の変わらない相方を支えて、ゲーニッツの部屋へと向かう。
逃げたいという本能も勿論あったが、この場で倒れられては目覚めが悪い。
幾らラスボスを張っていても、ヨハンには元チームメイトを心配するくらいの常識も良識もある。
抵抗されるかと思ったが、意外にゲーニッツは大人しくヨハンに体重を任せてくれた。
顔のすぐ隣にゲーニッツの荒い息遣いが聞こえて、横顔を赤い髪で隠す。
板張りの廊下にギシギシと重い音が響いて、間近にあるゲーニッツの体温を意識せずには居られなかった。



ゲーニッツの指示に従い、ヨハン達が宿泊している部屋から離れた場所にある和室にたどり着いた。
決して長い行程では無かったが、同体格の男を一人抱えた状態ではやはり辛いものがあった。
早々にゲーニッツを寝かせて退散しようと、襖に手を掛けたところで、あることを思い出し、ヨハンの動きが止まる。
その反応をなんの齟齬もなく読み取ったらしいゲーニッツはヨハンに凭れたまま、フフ、と小さく笑った。

「レアスなら別の部屋で寝ていますよ」
「……う、それくらい分かってる」

普通に考えれば、いくら養子と言えど、年頃の女の子と同じ部屋には泊まらないだろう。
自分以外に対しては聖職者然として振舞うゲーニッツを改めて認識する。
何故、私だけこんなにも敵視されるのだろう、と思うが、そんなことは散々考えた。
顔も見たくないほど嫌われているわけでもないらしいが、好かれているとは到底思えない。
暇つぶしとして相手をするにしては執着がきつすぎる。
本当にゲーニッツは何を考えているのだろうか。
そんなことを考えながら襖をガラリと開けば、イ草の香りが鼻を付く。

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[Serene Bach 2.23R]