温泉郷へようこそ
2010/10/13 Wed
m25
ルガールと静かに酒を飲む約束は、エルクゥ達の一件でうやむやになってしまったが、こんな形で訪れることになるとは思ってもみなかった。
ヨハンは逸る気持ちを押さえつけて室内へと声を掛ける。
「……ルガール、起きているだろうか。少しだけ匿って欲しいんだが……」
乱れる息を整えつつ、控えめながらもしっかりと声を掛けたつもりだが、襖の向こうからは何も返ってこない。
「…………寝て、いるんだろうか…」
もう一度声を掛けるには躊躇われる。ルガール達は慰安旅行で来ているのだ。
久々に羽を伸ばし、安らいで眠っているのなら、ヨハンの都合で起こすのは忍びない。
普段から世話になりっぱなしな上、旅先でまでルガールを頼るというのも情けない話ではある。
自嘲気味に赤髪を振ると、ヨハンはそっと襖から手を離した。
少しだけ瞼を下げて、ルガールを頼りにしすぎていた自分を悔いる。
しかし、感傷の海に沈みそうになった瞬間、襖の向こうからルガールの声が聞こえてきた。
『ヨハンッ、そこにいるのか!? 手を貸してくれ!』
ヨハンは考えるより早く、持ち前の反射神経に従い襖を思い切り、開いていた。
深夜だとか、迷惑だとか、ゲーニッツの追跡だとかは、全てルガールの切羽詰った声により吹き飛んでしまっていた。
「……!? ル、ルガールッ、大丈夫か!?」
扉を開いた瞬間、視界に飛び込んできたのは大量のゾンビにアフガンハウンド、それにタイラントである。
その影に押しつぶされるようにして横たわる浴衣姿のルガールが見えた。
一見、地獄絵図であるが、ヨハンは引きそうになる身体にグッと気合を入れて留まった。
「チッ、早いわね!」
「いやいや!なにやってるんだ!?」
タイラントの影に隠れて見えない場所から聞き覚えのある声が響く。
位置的にルガールに馬乗りになっているらしい、声に合わせてかすかにルガールの身体が揺れている。
声と行動からして間違いない、この惨状はルガール運送の社員の一人、ジル・バレンタインが原因だ。
ルガールへ情熱的過ぎるアプローチを続け、たまに行き過ぎて暴走している女性である。
敵とみなしヨハンに襲い掛かってくるアフガンハウンドを片腕で払い、ルガールへ近づくと、姿の見えたジルがルガールの太い首に腕を回した。
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