温泉郷へようこそ
2010/10/13 Wed
m25
結局、あの後、顔も合わせずバスに乗り込んだヨハンは若干の後ろめたさと、多大な恐怖に内心を占められる。
パブロフの犬のように身を硬くして、背筋に走る冷たいものを自覚しながら目を離せずにいると、
ふと、ゲーニッツの口元が緩んで、優しそうな笑みを浮かべた。
疑問を持つより早く、ひらひらと片手を振って、ヨハンに軽い挨拶の仕草を返すと身を翻し、自分のバスへと足を向けてしまう。
意外かつ穏やかな対応に気抜けして、ほっとすると、怪我は大丈夫だろうか。と心配まで一緒に浮かび上がってしまった。
あんなに酷いことをされた相手を心配してしまうのはきっと、睡魔のせいだ。と、自分でも分かりきった言い訳を並べる。
弱った姿を隠すように強がるところも、情緒も無く夜這いを掛けてくるところも、ヨハンを隙在れば苛めようとしてくるところも、全て好きではない。
それなのに元気になって良かったと思うのはただの感傷だ。
これ以上おかしなことを考えないようにと、ヨハンは素直に睡魔に従い瞼を下した。
昨夜のゲーニッツの驚いたような顔と、先ほどの穏やかな微笑みが瞼の裏に蘇る。
何故か無性に熱くなる頬を自覚して、それでも、その幻像を掻き消しきれない自分を持て余す。
シートに巨躯を沈めながら、小さく呻いて、その居心地の悪さに、肋骨折れろ。と強引で即物的で、
それでいて、たまらなく不器用な牧師に、なけなしのプライドを以って悪態を吐いたのだった。
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サンバ・テンペラード >>
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