温泉郷へようこそ
2010/10/13 Wed
m25
このままでは不味い、何が不味いって、隣にはフェルナンデスたちがいるのだ。
着々と浴衣を肌蹴させようとするゲーニッツは怖いが、ここでこれ以上、口には出せないようなことをされるなんて冗談じゃなかった。
「いい加減に………、しろぉっ!!」
「ん゛ぅ…ッ」
低い呻き声と共に横からゲーニッツを蹴り飛ばした。
なんだかあっさりと攻撃が入った気がするが、今はそんな些細なことに構っている暇は無かった。
眠りたがる身体を跳ね起こし、乱れた浴衣の袷を掻き寄せて走り出す。
隣へ続く襖を気持ちだけ静かにあけると、驚いたようなフェルナンデスとフェルデンクライスの顔が視界に入った。
「ど、どうしたんデス!?ヨハンさん!」
「すまん、フェルナンデス!」
「ああ!ヨハンさん!どこに行くデス!?」
「すいませんね、ちょっと失礼しますよ」
「うわぁっ!復活早いだろ!?」
「ゲーニッツさんまでいつの間に!?」
「おふぁえらひひからしすかにひろっ!」
殆どタイムラグ無く寝室から出てきたゲーニッツを尻目にヨハンは力いっぱい走り出した。
フェルナンデスの驚く声と、フェルデンクライスの呆れ声に背中を押されながら、
ヨハン自身もデス・アダーを気遣い、出来るだけ遠くへ逃げようと、走りにくい浴衣を乱して考えた。
浴衣の裾を翻し、スリッパの音をペタペタと脱力気味に響かせながらの全力疾走である。
赤い髪を靡かせて必死に逃げるが、追いつかれるのは時間の問題だ。
風の恩恵を受け、ひょうがを扱うゲーニッツとは移動速度が絶対的に違う。
力量的には似たようなレベルではあるが、お互い得手不得手があるのだ。
しかし、捕まったが最後、どんな酷い目に合わされるか分かったものではない。
こんなときに頼りになる心当たりは一つだけだった。
もう、夜更けも過ぎているため、起きているか分からなかったし、寝ていたとしたら迷惑になるだろうと思う。
だが、この旅館を破壊しつくさんばかりにゲーニッツとぶつかりあう方が、
迷惑を掛けることになるとヨハンなりに判断して、勢い良くコーナリングを決める。
まっすぐ向かうのは社員旅行で来ているルガールの部屋だ。
昼間に遊びに来ると良い、と言われて教えられた記憶を頼りに、襖に手を掛けた。
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