ラウンド・コールは高らかに
2010/10/09 Sat
m25
「…………………」
「…………………」
暫しの沈黙。ゲーニッツは諦めたように息を吐き、ヨハンを解放した。
解放されたヨハンは、ずざぁ!とばかりに、壁にはりつき距離を取る。
その様子にも、ゲーニッツは不愉快とばかりに息をつく。
「あぁもぅ、あなたという人は…………」
「黙れ!近寄るな!!」
威嚇する猫のようにがなるヨハンに、ゲーニッツは再三、息をはいた。
「はいはい、わかりました」
言いながら、ゲーニッツは扉へと向かう。
距離を保ちながら、ヨハンも扉へと向かうが、振り向いたゲーニッツに制された。
「次の試合は私だけで十分ですよ。貴方は休んでいてください」
「何を馬鹿なことを。そういうわけにもいかんだろう」
仮にもボスに対して戦力外紛いの言葉にヨハンの声にも棘が混じる。
それに対して、ゲーニッツはさして気にしたそぶりも見せず口元は弧を描いた。
「どうしても出るというなら止めはしませんが」
つい、と。ゲーニッツの指が、ヨハンの目元を指す。
「せめて涙で潤んだ目元を洗ってきたほうがいいと思いますよ? なにかあったのではないかと、邪推されたいなら話は別ですが」
一瞬硬直したヨハンは、慌てた様子で洗面所へと走り去る。
それを見届けて、ゲーニッツは足早に会場へと向かった。
定刻を過ぎれば、会場への出入りは規制される。
選手である以上、定刻を過ぎても多少の融通は利くだろうが、
地味だ一般人だといわれているヨハンを選手だと認識できるスタッフが果たして何人いるか。
取り留めなく考えながら、ゲーニッツは今日の対戦相手も一人で相手をするつもりでいる。
わざわざヨハンを出すまでもない。吹き荒ぶ風が相手をするだけでも十分すぎるだろう。
もっともらしいことを理由として心中で上げながら、
『泣いた跡の残るヨハンの顔を他の人間に見せてやるものか』
と、いう最大の理由に蓋をして、はた迷惑な風は開始時間ぎりぎりに会場へと入っていった。
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