だんだん強く
2010/10/08 Fri
m25
指が五本揃っているのは奇跡なのか、それこそ最強と謳われる理由なのかは分からない。
何の躊躇いもなく差し出されたままの掌をジッと見やり、オズワルドは重い腕を持ち上げる。
その手に己の手を重ねようとして、ふと思いとどまり、自らの赤い手を隠す手袋をゆっくりと外す。
赤い赤いと思っていた掌は、ジェネラルを前にして見れば、年老いていたが、日焼けのない唯人の掌だった。
まるで人の手のようだ、とぼんやり考えながら、ジェネラルの掌に重ねる。
触れた場所から体温が伝わり、オズワルドが抱えていた闇をじんわりと暖めていく。
「君はそろそろ引退すべきだな」
身体に負担を掛けぬように引かれ、節々で細かい痛みを覚える痩躯を起こした。
ふらつかなようにしっかりとジェネラルの手を握って。
重力に逆らう力強さに身を任せ、まるでどろりとした闇の中から引きずり出される錯覚に陥る。
「殺し屋の手にしては、温すぎる」
それは貴方の手が暖かいからでしょう、と云う本音は言葉にならなかった。
グッと喉が詰まって、息も注げないほど、心音が高く跳ねたのだ。
痛みを堪える振りをしながら、細く長い息を吐き出すと、目元に指先を宛がいながら、
まったくもって素直でない皮肉交じりの揶揄を吐く。
「確かに貴方に負け続けていれば、やがて廃業でしょうね」
「そうなる時を心待ちにしているよ、―――オズワルド」
ジェネラルはその言葉にすら笑って軽い声を返してきた。
耳に滑り込んでくるジェネラルの低音が心地よく、オズワルドは身体から力を抜く。
真正面から見たジェネラルは、最強の尖兵と謳われる苛烈で厳しいものでなく、
穏やかで、オズワルドを労わるような目をしていた。
手を繋いでいる場所から、汚れが落ちていくとは到底思わない。
けれど、伝わってくるぬくもりは、オズワルドが今まで感じたことのないものだった。
ただ、それ以上の確信を以って、初めてジェネラルと飲むだろう紅茶の味を、
オズワルドは生涯忘れることは無いと、強く思った。
あれから数度、ジェネラルの暗殺を試みてみたが、結果は一番初めと変わらなかった。
変わったのは、ジェネラルの手加減が堂に入ってきたことと、
最後に二人でティータイムを楽しむようになったことだった。
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