オールイン
2010/10/02 Sat
m25
親愛以上の想いを込めて億万のキスを降らせようと、言葉すら伴わない行為は肌の上を滑るだけだ。
それを理解していながら、それでも言葉ひとつ出ない理由はいっそ笑えるくらい情けないもの。
「……好きの一言も言えないとは……」
呟きはオズワルドの想像以上に、精神へ多大な打撃を与えた。
情けなさも不甲斐なさも一つ息を吐いて抑えると、帰路へ着くべく歩を進める。
長い足に似合わない遅々とした進行速度で廊下の角を曲がった。
「――――ッ!?」
しかし、オズワルドの身体が角を曲がりきる前に、
前方から伸びてきた腕に襟首を掴まれ、勢い良く壁に縫い付けられた。
オズワルドの広い背中と壁がぶつかる音が、静かな廊下に盛大に響く。
肺に溜まった空気が揺れ、オズワルドは喉奥で小さく呻いた。
衝撃にぶれた視界を二、三度の瞬きで洗うと、未だ襟首を掴んだままの襲撃者にピントを合わせた。
しかし、視界が明瞭さを取り戻すまでもなく、それが誰かは分かっていた。
相応の実力を持ってトーナメントに出場しているオズワルドに、
気配を察知させず、致命傷になりうる箇所を押さえ、壁に縫い付けることが出来る人物など限られている。
何より、そんな仕打ちを受ける覚えは目下のところ一つしかないのだ。
オズワルドは、けほ、と、弱弱しい咳払いをしてみせると、小さく笑みを浮かべた。
「―――熱烈なご挨拶ですね、閣下」
「…………」
オズワルドの隠された瞳を目を細めて見つめる襲撃者はオズワルドの想像通り、ジェネラルだった。
ジェネラルにしては珍しく、オズワルドの言葉に何の反応も返さない。
その様子に、静かにオズワルドの背筋を冷たい汗が伝った。
恐れてやまないジョーカーの効力を、まざまざと感じさせられる。
嫌な速度で打ち始めた心音から意識を逸らせようと、オズワルドは口を開いた。
しかし、言葉が出る前に、ジェネラルの声に遮られた。
「もう、触れないでくれ」
その言葉に、早鐘を打っていた心音が聞こえなくなった。
空虚で無常な静寂がオズワルドを包み、次いで、
その言葉を理解できる程度に理性を保ったままだった自身を盛大に呪った。
押さえられている以上に肺が軋み、呼吸が詰まる。
心臓がズタズタに解剖されたように痛んでは、オズワルドを苛んだ。
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