オールイン
2010/10/02 Sat
m25
寝不足でふらり、と揺れる視界さえ億劫で、オズワルドは小さく息を吐いた。
「………帰ってしまったでしょうね……」
ぽつり、と、思わず零した独り言は、人気のない廊下に思いのほか響いた。
オズワルドは皮手袋をした手で、そっと己の唇に触れた。
唇に、皮の滑らかな感触が伝わり、切なげに目を細める。
本当なら、こんなものではなくあの唇に触れたい。
近い距離で、眦から頬へと朱が広がる様が見たかった。
オズワルドは煩悩を振り切るように頭を振った。
「やれやれ…やんちゃは閣下の専売特許でしょうに」
口先だけで自らを諌めるも、何の効力もありはしなかった。
もしもそれだけで衝動とも呼べる厄介な感情が収まるようなら、
ジェネラルの意思を無視してキスを降らせることなどなかったのだから。
幾ら理性でブレーキを掛けようと試みようとも、ジェネラルの前では理性すらも崩壊する。
ただ口付けたいという欲求のみが身体を支配し、まるでオズワルドの味を覚えこませるようにキスを重ねてしまう。
薄い皮膚越しに伝わるジェネラルの熱と小さな動揺に、胸が揺れて仕方ない。
「……ふぅ…」
ここ最近の多忙さで触れたい欲は日ごと強まるものの、寝る間すらも惜しまねばならない状況下において
ただ欲求を満たすためだけにジェネラルの姿を探すのも躊躇われた。
散々縁を切られても文句のひとつすら言えないようなことを強要しているという自覚はあるのだ。
近づけば笑みも浮かぶし、話しかければ雑談に応じてはくれるが、それがいつまで続くか確約はない。
ジェネラルとオズワルドは友人の位置に納まる間柄でしかなく、
それ以上を望む感情を言葉として伝えていない以上、その関係は打破できてはいない。
「―――年を取ると……厄介ですねぇ……」
オズワルドは呆れたような声を漏らした。
現状、ジェネラルがオズワルドの行動に心底嫌気が差したら全てが終わる。
ジョーカーは常にジェネラルの手にあるのだ。
それが切られた瞬間に、どんな役すらカードの屍山に堕ちて意味を失う。
酷く心もとない綱渡りは、初めて暗殺者として人を殺した瞬間の吐き気がするほどの緊張感にも、
暗殺者を引退して、真っ当な職に就いた初日に感じた高揚感にも似ている。
[7] << [9] >>
-
-
<< Awesome GOD
貴方と視線の争奪戦 >>
[0] [top]