抱枕
!注意
オズワルド×ジェネラルで糖度高い話。
小ネタ 3の続き。
直接的な描写はありませんがグスタフ→ゲニ設定出てきます。
やっぱり尖兵が乙女。
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一人分の寝息しか聞こえない寝室の扉を静かに開くと、オズワルドは足音を殺して部屋へと踏み入った。
夜に慣れた視界で掛け時計を見やれば、短針が二を僅かに過ぎている。
明日は大会が無いとは言え、こんな時間まで付き合わされるとは思っていなかったオズワルドは片手で軽く額を抑えた。
「―――……こんな時間まで子守をする羽目になるとは……」
個人的には、もっと早くに切り上げる心算だったが、予想以上にグスタフの話が長かった。
亀の甲より年の甲、を地でいくオズワルドには話を卒無く切り上げるスキルを持ち合わせていたが、
今夜のグスタフにはその隙がなかったのだ。
グスタフの財布から購われる酒は上物ばかりで味は悪くなかったが、聞く話が一辺倒の上、
ピンポイント過ぎるほど一人の話しかしない酒宴ではその味を損なうばかりである。
正直、今夜飲んだどんな酒よりも、ジェネラルと飲んだ昨夜の食前酒の方がずっと美味しく感じられた。
「―――……暫く誘いは断りましょうか……」
早めに帰る心算だった為、ジェネラルに連絡を入れるのが遅くなってしまったこともオズワルドにとっては不満だった。
ジェネラルは、食事や睡眠といった行為に基本的に酷く無頓着なのだ。
職業・軍人を長らくしているせいだとも思うが、どうも食事や睡眠を必要不可欠なものではなく一種の嗜好だと捉えている節がある。
食事を摂らないと栄養が体に回らない、睡眠が足りなくては精神に異常を来たすといった知識は持ち合わせている。
けれど、それだけだ。
なまじ頑丈な身体、強靭な精神を持ち合わせ、常人であれば耐えられないような劣悪な環境でも完璧に動くことが出来るから
食事や睡眠は娯楽の意味合いが強いのだろう。
無論、見ているオズワルドにとって見れば心配どころの騒ぎではないのだが。
だから、オズワルドが夕食を共にしない時は早めに連絡を入れて、ジェネラルの重い腰を上げさせている。
今夜は常よりも連絡が遅くなったから、ジェネラルが食事を摂ったかは五分五分だ。
ゆっくりと歩きながらネクタイを解き、ソファの背にジャケットを掛けると、音も無くベッドへと腰掛ける。
スプリングの僅かな軋みさえも殺しきる動きは暗殺者然としているが、実際は寝入りの浅い番いを気遣ったに過ぎない。
やれやれ、と肩を竦めながら、漸く一心地付いたように吐息を漏らす。
次いで、隣で安らかに寝入るジェネラルへと視線を落とした。
「……ただいま戻りました」
呼気に混ぜるように呟くと、腕を伸ばして寝入るジェネラルの金髪を梳いた。
金髪はしっとりと湿っていて、乾かさずに寝たのだろうと苦笑を漏らす。
髪を乾かさない程度でどうにかなるような鍛え方はしていないだろうが、せっかくの金髪が傷んでしまうのは勿体ない。
ドライヤーは無理でも、せめてタオルで水気を取ろうかとオズワルドが思案していると、僅かに開いている窓から夜風が入ってきた。
風はカーテンを揺らし、控えめに月光を室内へと差し込ませる。
「―――おやおや…」
窓の閉め忘れなど、珍しいこともあるものだ。
オズワルドは内心で驚きながらも、寝ているジェネラルに夜風が当たらないよう、素早く動いて窓を閉めた。
窓辺に立ち、捲れたカーテンを直しつつ、眠りにつくジェネラルを伺うように寝台へと視線を投げた。
「……?」
僅かな光源で確認した寝台は、朝見たときと何処か違って見えた。
オズワルドは違和感に首を傾げつつ再び寝台へと腰掛けると、今度は注意深く周囲を見渡した。
朝方替えたばかりのシーツに、目覚まし時計、枕に埋まる金髪に―――…
枕?
オズワルドは闇に慣れた視線をキョロキョロと寝室のあちらこちらへと飛ばす。
ジェネラルのものと同じ大きさの枕は決して小さいものではないのに、寝室のどこを探しても見つからない。
「……どこに隠したんです……?」
くすくすと、心底愉しそうに笑むオズワルドは隣のジェネラルに小さく問うた。
差し詰め、帰宅の遅くなったオズワルドに対する意趣返しの心算なのだろう。
笑気を堪えながら身を屈め、ジェネラルの米神に口付けを落とそうとしたその瞬間、オズワルドは意外な場所で探し物を見つけた。
「…………」
探し物を見つけた瞬間、オズワルドの頬に熱が上がる。
そろそろとジェネラルから距離をとり、頭を抱えるようにして寝台に音無く沈んだ。
喉奥から羞恥なのか歓喜なのか衝撃なのか分からない呻き声が上がりそうになるも、力を振り絞ってそれを殺しきる。
必死に呼吸を整えて、よろり、と緩慢に身を起し、再度ジェネラルを覗き込む。
ジェネラルの腕には、先ほどと同じように枕が収まっている。
その枕が誰の物なのか、など、見慣れているオズワルドにはすぐに分かった。
込み上げてくる熱を押さえるように、オズワルドは片手で口元を押さえる。
「………貴方という人は…本当に……」
頬といわず、首筋まで上がる熱を誤魔化すように呟くも、力を帯びずに途中で失墜する。
グスタフと会うのを、ジェネラルが手放しで歓迎していないことは気づいていた。
そして、それをオズワルドに気づかせないように気を配っていることにも。
ジェネラルのそういった反応が見たくて、告げる必要のないことを口にして不満を煽った自覚はある。
けれど、こういったカウンターをされるとは想像もしていなかった。
オズワルドに対する不満も不安も何も口にせず、
ただ寂しさを埋めるように枕を抱きしめる姿に胸が苦しくなるほどの愛おしさを感じた。
何もかもが完璧すぎる恋人に、オズワルドは大きく白旗を上げると、徐にシャツの鋲を外した。
胸元まで寛げると、片手を向こう側につき、ジェネラルに覆いかぶさるように身を屈めた。
オズワルドの鎖骨に、ジェネラルの吐息がかかる。
ジェネラルの不満も不安も掻き消すように、寛げたオズワルドの肌からは酒精の香りしかしない。
「ご心配をお掛けしました。私には、貴方だけです」
耳に唇を寄せて、低い声で囁いた。
その声に、寝入っている相手を気遣う気配はない。
ただ真剣に、躊躇いもなく告げるのは本意であり本心だ。
そんな情熱的な言葉を拾っただろう耳が、オズワルドの眼下で緩々と赤く染まっていく。
「…………………はやく、寝たまえ」
抱きしめた枕に顔を埋め、シーツに潜るジェネラルの声は羞恥に揺れていた。
オズワルドは幸福そうに微笑むと、眼下の耳にキスを贈る。
鼓膜を震わすリップノイズに、ジェネラルの肩がびくりと跳ねた。
「枕がなければ寝られませんよ?」
「知らん」
「ふふ。どうあっても離して頂けませんか?」
「深夜帰宅の貴方が悪い」
切って捨てられるような返事にも、オズワルドは笑みを深めた。
眼下の耳はまだ赤いままで、枕はジェネラルの腕に捕らえられたままだ。
別段、枕がなくても寝られるが、それよりも愛しい人を甘やかしたかった。
「では…、」
オズワルドは枕を抱きしめるジェネラルごと、その腕に閉じ込めた。
羞恥が身を焦がすジェネラルは暖かく、オズワルドは瞳を和ませた。
「閣下を抱きしめて眠るとしましょうか」
そうすれば、きっと貴方の夢が見られるから。
声なく伝えた言葉に、ジェネラルは小さく頷いた。