空枕
!注意
オズワルド×ジェネラル小話。
作中には出てきませんが、グスタフさんがオズさんの弟子設定。
尖兵が乙女でちょっとセンチメンタル。
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夏が過ぎ、秋が近寄ってくると、夜の気温は一変する。
底冷えを引き連れて一気に寝室を冷やす手腕は見事なもので、ジェネラルは低い吐息を漏らした。
「―――寒い……」
憮然とした面持ちでそう呟くと、中々温まらないシーツを掻き寄せた。
筋肉質なジェネラルの体温は人より高く、秋も始まったばかりの時分では、夜といえどそこまで厳しい寒さではない。
にも関わらず、眠気を払拭するほどに寒々しく感じるのは、いつもの寝台が嫌に広く感じることと直結している。
「…………」
子どもではないのだから、と、幾度目かもしれない自戒を呟き、眠気を求めるように寝返りを打った。
けれど、動いた先の冷え切ったシーツに頬が当たり、眠気は一層遠ざかっていく。
それでも無理にでも休もうと瞼を閉じて、静かに自らの心音の数を数え始めた。
そうしながら、ジェネラルは朝の会話を思い出していた。
『今日は帰りが遅くなります』
狐色が美しいロールパンに、チーズとトマトの入ったオムレツ。
ボイルしたチキンと数種の豆のサラダと、トロリと口当たりの良いコーンポタージュ。
目にも舌にも楽しい朝食を用意してくれたオズワルドは、
仕上げとばかりに二人分の紅茶を淹れると、どこか申し訳なさそうにそう言った。
オズワルドからフォークを受け取りながらジェネラルは首を傾げた。
『試合はなかったろう?』
『少し、古馴染みに呼ばれましてね』
いつもより、どこか機嫌よさそうなその笑顔に、ジェネラルは声なく納得する。
長い間、裏社会の闇に身を投じていたオズワルドに、今なお連絡を取れる古馴染みなど数えるほどしかいない。
加えて、常のアルカイック・スマイルが微妙に深いものになっているとあれば、更に範囲は限られる。
ジェネラルの脳裏にかつての彼の弟子であり、風の腹心たる黒衣のワイヤー使いが浮かんだのに
気づいたのか気づいていないのか、オズワルドは苦笑を漏らした。
『またいつもの話だとは思うんですが…』
『いや、構わない。久しぶりなのだから、ゆっくりしてくると良い』
仕方ない、というポーズを取ってはいるが、内心は会うのが楽しみなのだろうというのはジェネラルにも分かった。
師弟であったのは短い間でしかないと聞かされてはいるものの、それでも弟子が可愛いらしく、
いっそ大人気ないほどの構い方をしているのを幾度か見たことがある。
ジェネラルが快く頷くと、オズワルドは心底嬉しそうに微笑んだ。
『閣下のそういった―――私の大切な存在を尊重して下さるところが、とても好きです』
『……オズ、早く食べたまえ。折角の食事が冷める』
『ふふ、そうですね』
流れた空気が気恥ずかしく、ジェネラルは視線を泳がせながら食事をせっついた。
それに乗りながらも、オズワルドは笑みを一層深めてから、ようやく料理に手をつけ始めたのだった。
心音が三百を越えたのを機に、ジェネラルは瞼を押し上げた。
闇に慣れた目で室内を浚うが、瞼を閉じる前となんら変わらない光景が広がっているだけで、
ジェネラルは落胆したようにベッドに沈んだ。
何度目かも分からない寝返りを打ち、何度目になるかも分からない吐息を吐き出す。
「…………」
じわじわと、胸に広がる不快な感覚はオズワルドを片割れに得てからよく見舞われるもので、
それが何かを知っているジェネラルは眉間に盛大な皺を寄せた。
「―――……『大切な存在』……か」
呟いて見れば、それはジェネラルの予想以上に胸の不快感を煽った。
ギッと、鋭く天井を睨みつけ、次いで、そんな反応を恥じるように腕で目元を隠した。
この不快感の正体は嫉妬だ。
オズワルドの過去を知っていて、今なお『大切な存在』だと認識されている彼が羨ましい。
弟子だったというだけで、オズワルドの意識を奪っていることが腹立たしい。
そう、彼のことを心中で妬んでいると、唇が弧を描いた。
「……馬鹿馬鹿しい」
オズワルドが彼を想うのは親心に似た感情で、そこに恋情が伴わないのを知っているだろうに。
埒も明かない嫉妬に駆られる自身がひどく愚かに思えて、ジェネラルは小さく呻いた。
オズワルドが、複数の相手を同時に想うような軽薄な人間でないことくらい誰よりも知っている。
それでも拭えない不快感は、理性での理解に感情が同意していないからだ。
オズワルドと関係を持ち始めてから、こういった今まで知りもしなかった自分の側面を知るようになったのは良い事なのか何なのか。
ジェネラルは重く息を吐くと、弛緩した腕を伸ばした。
狙うのはジェネラルの枕と並んだ、オズワルドの枕。
抱き寄せると冷たかったが、それでも一人で寝返りを打ち続けるよりも暖かく感じた。
「――――……帰ってこない貴方が悪い……」
真っ白な枕を腕の中へと納めて、未だ帰らない片割れに八つ当たりの言葉を漏らす姿も、
かつてのジェネラルからは想像すら出来なかったこと。
次々にジェネラルを暴いていく老獪な紳士に、
しがない尖兵は聞こえもしない罵倒を枕に落としたのだった。