『 上 書 き し ま す か ? 』
  

「ねえ、もし記憶が消せる薬があったら何消したい? 本当に部分だけ消せるの」  姉貴が唐突に聞いた。え? と、問い返すように振り返ると姉貴は変わらず椅子に腰 掛けパソコンのモニターに向かったまま、大学のレポートを書いてる。 「そうだな」  俺は前を向いて少しだけ考える振りをする。本当は直ぐ思いついた。あの唇の……。 「駄目だよ」 「え?」  俺がもう一度振り向くと、俺の顔を睨みつけるように見ている姉貴と目が合う。 「今、弘孝の頭に浮かんだでしょ。それだけは消さしてなんかあげないから」  姉貴は何だと思ったんだろう。そう、きっと俺が姉貴にした悪戯とか、ケンカとか それで恥をかいた事とか、そんなとこだろう。  問い返せば、得意になって言い出すに違いない。   そう思って、そう自分に思い込ませて。だから俺は姉貴に何も言わなかった。  夏休みだった。 僕が小5でお姉ちゃんが中1。  「うーん僕の負けだ。お姉ちゃんの命令って何だよ」  僕はふてくされて手持ちのカードをじゅうたんにばら撒いた。  ポーカーの罰ゲームは勝った方の言うことを一つきくことだった。 「じゃあね、うーん」 「早く言って」  僕はカードをまとめて何の気なしにシャッフルする。  「……キスでもしようか」  バサバサバサ。折角集めたカードを全部落っことした。 「ええ? 僕とお姉ちゃんが?」  お母さんが隣のおばちゃんに言ってた。 『うちのお姉ちゃん最近ティーンズ系の雑誌なんか読みだして、すっかり色気づいちゃってね』  そうだよ、そんな雑誌ばっかり読んでるから……。 「うん。だって、まだ誰ともしたことないんだもん、練習よ、練習」  僕はぼそぼそと言い返す。 「……好きな人のために取っとけばいいのに」 「ふーん」  お姉ちゃんが意地悪くニヤニヤ笑いながら僕を見る。  左手を床につけると膝をついて僕のほうににじり寄る。  僕は背中をびくりとさせてしまって、それがお姉ちゃんにばれてないかが気になった。 「弘孝は取っときたいんだ、今だったら誰かな……」  すっと僕のほうに手を伸ばす。思わず目を閉じるとその手は僕の頬を撫ぜた。 「……同じクラスの裕香ちゃんでしょう?」  からかうような言い方に僕は手を払いのける。 「僕はそんなのないよ!」 「なら、いいじゃない」  きょうだいでなんて嫌だ。ただそう言えばよかったはずなのに。  僕の頬を撫ぜた手をそのまま胡座をかいていた僕の膝に置く。  それだけで僕は金縛りにでもなったみたいに動けなくなる、逃げられなくなる。  じりじりとお姉ちゃんが近づいてくる。  「目」  口の中が乾いて張り付いたみたいになってたけど、それでも僕は口を開いてどうにかそれだけ言う。 「ん?」 「目を閉じるんじゃないの?」  お姉ちゃんは口を尖らせる。 「やーよ、せっかく初めてなんだから、相手はあんただし」 「なら、僕だって」  顔が近づいてくる。恐い? そんなことはなくて……当たり前だよ、いつも見慣れてる……でも、 いつもと違っても見える。目の奥が光ってるっていうか、泣いちゃいそうにも見えるし……。  怖くなんか無かったけど、恥ずかしくも無かったけど結局僕は目を閉じる。  お姉ちゃんだって、閉じてたと思う。お姉ちゃんの唇が僕のに当たるまで少し時間があったから。  僕の唇にお姉ちゃんのが触れて、それから押し当てられる。  あ、柔らかい。ふにゃっとした柔らかさじゃなくて、押したら押し返してくるような。  唇同士だからかな。  自分の唇に指で触るだけじゃこんな感覚分からなかった。  面白いし、ただ気持ちいい。  何度も唇を軽く押し付けながら不思議な感触で遊んでいると不意にその感触が無くなる。お姉 ちゃんの息が遠ざかる。お姉ちゃんが命令する。 「口、少し開けなさいよ」 「え……うん」 「少しでいいのよ」  いらついたように催促され僕は従う。 「うん」  頬を両手で押さえつけられる。逃げたりなんかしないよ……罰ゲームなんだから。  「私の舌、噛まないでよ」  わたしのした? 言葉の意味が一瞬わからないで戸惑った隙に。 「ん……んっ!」  柔らかい生き物が口に入ってくる、ううん、お姉ちゃんの舌だ。  舌は僕の歯をこするように入り込んできたかと思うと、上顎を撫ぜて、それから僕の舌と自分の をこすり合わせてくる……僕の口の中をいろいろ確かめるみたいに、探検でもしてるみたいに。  お姉ちゃんの口の中の味が僕にも伝わる。  さっきまで同じ物を食べていたから味は同じはずなのに、違う。  気持ち悪い、僕はぼんやり思う。  だけど、もっと知ってみたい、お姉ちゃんの感触や味を。  まだ僕が知らなかった頃、キスじゃ子供は出来ないって、友達が言ってた。  確か、エロい話が得意な修司。 『チュウよりももっとエロい事するんだよ』って。  でも、今してるのだってすごくエロい。  僕の唾もお姉ちゃんの唾もぐちゃぐちゃに混ざり合って、お姉ちゃんのおなかに入っていって。 それで本当に何とも無いのかな。  お姉ちゃんの唇が離れて、いつのまにか自分も舌を突き出すようにしてたことに気づく。  こっそり薄目をあける。  僕とお姉ちゃんの間に唾液の糸が伝う。  お姉ちゃんも目を細めて僕を見てる。えっちな目つきだ。  ふうっって溜息一つついて、お姉ちゃんは目を閉じる。だから僕も目をつぶる。  唇が合わさる。お姉ちゃんも僕も軽く口を動かす。お互いの唇の形を確かめるように。   口をくっつけるのだけがキスじゃないんだ。 「あ……ん、ん」 「ん……う、ん!」  ぼんやりしてるうちに僕はどんどん攻められていく。  僕の舌をいじめるようにつついたり、口の中を暴れてる。     でももっとして欲しいような気もして、僕はちょっかいを出すようにお姉ちゃんの口の中に自分の 舌を差し入れる。 「ん!」  僕の舌が吸い込まれる。罠にかかったみたいだ。口の中でもごもごされて、鈍い痛みが伝わって それでもそれが気持ちいい。  吸われてるのは舌のはずなのに、ズボンの中が窮屈になってそれから熱くなってくる。  こんなのまずいよ。 「何逃げてんのよ」  逃げ腰になる僕を追うように、お姉ちゃんの太腿が僕の脚の間に割り込んでくる。  ダメだよ。そんなふうに近くにきたらお姉ちゃんの膝が僕のにあたっちゃう。  ばれちゃう、僕のがこんな風に……。  ピンポーン。  玄関のチャイムが鳴って、僕らの内緒の時間は終わりになった。 「……由紀が来るって言ってったっけ」  髪の毛を整えながらお姉ちゃんが階段を下りていく。  まるで何もなかったみたいに。 「きつい」  全然、僕のはしずまらない。  今日はきつめのズボンを履いていたから余計に気になった。  自然に元に戻るのは時間が掛かりそうだった。 「まだ、話をしてるし大丈夫だよね……」  チャックを下ろすと待ち構えてたみたいにおちんちんがおなかのほうに跳ね上がった。 「こすったら気持ちよくなって……それであれが出てきて……そうしたらおさまるん だよね」  友達に聞いていて僕は知っていた。した事はなかったけど。   右手で棒のところをこすってみる。声が出そうになるのをこらえて、代わりに小さく息を吐く。 『どうしたのー』『うん、それがさ』  玄関でお姉ちゃんが友達と楽しそうに話している声が聞こえる。  もう少しこすってみる。気持ちいいけど、本当にこれで出てきちゃったりするのかな。  どれくらい時間がかかるんだろ。 「お姉ちゃん帰ってきちゃう、早くしなきゃ」  もし見られたら……お姉ちゃんが僕のこんなの見ちゃったら。  きっとからかわれる。触られちゃうかもしれない……。  びくっ。ぼくのおちんちんが興奮してるみたいに反応した。 『うん、暇してたー』『じゃあさ……』『行くー』  玄関からお姉ちゃんが僕に言う。 「弘孝、あたし友達ん家に行ってくるから」 「……ん……うん」  僕は安心してこの事だけで頭を一杯にする。 「もっと、もっと、動かして、気持ちいいから……」  自分で手を動かしてるのに、誰かにお願いしてるみたいに僕は呟く。 「ん、ん……」  薄目を開けた時に見たお姉ちゃんの表情を思い出す。  それから突き出されていた舌……あの不思議な生き物がここに絡みついてきたら……そ のことを妄想する。  きっと唾液でひやっとした後に、伝わってくるお姉ちゃんの舌が柔らかくて温かいんだ。  自分の先っちょの所を指先で包むように撫でる。もう透明なぬるっとした液が出てるから それを全部になすりつける。ぬるぬるして気持ちいい。  お姉ちゃんの口の中に入れたらこんなふうになのかな。  それとももっと気持ちいいのかな。  唇が僕のをしごいて、舌が僕のをなめまわして。  考えただけで熱くなって、はじけそうになって。  手の動きも段々速くなる。まるで自分で動かしてるんじゃなくて勝手に動いてるみたいな 気分になって……。 「あ、でちゃう、でちゃうっ」  びゅっ。びゅっ。  白く半透明で粘ついた液が僕の手の中にほとばしった。 「すこしこぼれちゃった……じゅうたんもあとで拭かなきゃ」   僕は自分の手のひらを見つめながら、お姉ちゃんが涎みたいに唇の端から僕の精液を流す姿 を想像していた。  結局女の人の裸を思わずにオナニーで最後までいったのはこの一回だけだった。 「弘孝、あんた、パソコン使う?」  パソコン画面に向かったまま、マウスに手をかけた格好で聞いてくる。  「……」  俺は無言で近づくと上から自分の手を被せるようにしてマウスを操作し終了させる。 「記憶を消す方法はさ、薬なんかいらないんだ」  俺は後ろから抱きしめて耳元でかすれた声で囁く。  「……もっと強烈な記憶で上書きしちまえばいいだけだ」 「そうかもね」  お姉ちゃんはそう言って僕に笑いかけた。

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