珈 琲 時 間「こんな遅くまでご苦労さんだな」 研究室の中をグラハムは覗き込んで言う。 「君こそどうしたんだい」 「寝付けなくて。ここに来ればいつでもコーヒーが飲めると思ってね」 そう言いながらカタギリに無断でカップを棚から出しコーヒーを注ぐ。 「眠れなくてコーヒー?」 面白そうに言うカタギリに真顔で答える。 「寝る前には何を飲んでも平気な方なんだ、それよりもそっちこそ」 デスクの端にある皿を見て言う。 「夜中だと言うのにドーナツか。よく太らないな」 「頭を使ってる時は必須だよ。脳が欲してる、そんな感じがするんだ」 「欲してる、ね」 「思考の展開がいいからと横着して補給を怠ると脳貧血のようになったりしてね」 皿を指差してカタギリが尋ねる。 「――ドーナツ食べる?」 「いや、いい」 夜中と言うのもあるが、そんな風に言われたものを食べるような真似は流石に ためらわれた。 カタギリの机の上のノートを見るともなしに見る。 「私の名前があるな」 「ああ、君の実戦の動きをあらゆる視点から数値化したものだ」 「ふーん、ここの加速度の意味は?」 「これはね……」 好奇心のおもむくまま幾つか質問を重ねた後でグラハムはふと気づく。 「もしかして邪魔してるかな」 「いや……」 背中を向けながら、半ば独り言のようにカタギリは言う。 「……君がいると少しだけ能率が上がるような気がするよ」 「え?」 グラハムの方を振り返って、いつもの口調で続ける。 「多分、気のせいだけどね」 「なら」 グラハムは片眉をあげ、カップを持ち上げて見せて言う。 「このコーヒーを飲み終わるまでここにいさせてもらおう」 「ああ、頼むよ」 邪気の無い笑顔を浮かべ、カタギリは言った。
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