『  独   白  』

 何故、誰も私の愛をわからぬ。  ロレーヌ。お前には色々なものを与えてきた。宝石、貴金属、豪奢な部屋、贅沢な 暮らし……いや、何より愛だ。それに対して、私に何も返さない?それこそが人の道 を外れた事ではないか!  ネイジュ?あの小僧の事か。あの虫けらなど知った事か。お前ら二人がどこぞへ逃 げようが、野垂れ死にがいい所だ……そうだ、私はそれから救ったのだ。貧困、飢え、 それに続く絶望から、救ってやったのだ。なんと、私の慈悲深いことか!  妻は、私の愛しい妻はどこにいる?一番の愛を捧げた、愛しいひとよ。  ロレーヌなどという薄情な娘を産み落とし、やがて、死んだあの女の事ではないぞ!  愛を与えるほどに肉の歓びを与えてくれる、生の歓びを与えてくれる、かけがえのな い、何よりも大切な人の事だ!  どこに隠れているのだ。  邪魔な娘ならもういない。  くだらない、羽振りだけはいい男に突き出してやった……ああ、勿論それが結局は 娘のためだからだ。私はけして非情な男ではないからな。  ――や!――はどこにいる?  早く、出ておいで。恥ずかしがらずに。先日手を取り合っていた男とはただの遊び だった事ぐらいわかっているから。  娘に逃げられ、妻に立ち去られたド・サンローラン伯爵。  その失意のあまり、気の触れた彼の身柄を引き受けたのは、先代の伯爵との縁が深 かった元、使用人の男であった。  彼が伯爵を住まわせていた小屋――実際は納屋であったが――から伯爵が出てくる事 はまず、無く、そこからは昼夜問わずに独白が聞こえ続けた。  村の子供達が時折小屋に聞き耳を立ててはしのび笑いを漏らしつつ、逃げていく。  その様子を見る元使用人は眉をしかめ、しかし、子供達に何を言うでもない。 「――!――はどこにいる!?早く出ておいで!」

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