柵 の 中 の 羊
つまらねー授業はエスケープ。幸いに古文の生島は、自分の授業テクニックの無さを悟ってるらしく
俺がいなくなるのも注意しない。
保健室は多分この時間は満杯、図書室は施錠中、後の無難な心当たりは小体育館。タバコでも吸って
時間をつぶすか。
案の定誰もいない小体育館に俺は忍び込み、ポケットからタバコを取り出そうとすると、用具置き場
から声が聞こえた。声を潜めようとしているのかくぐもってはいるが明らかに男と女のやってる声。
俺は隙間から覗いて見る。
「…お兄ちゃん、体育マットの上って…硬い…あ、ん…乳首、感じてる…や、ん」
女は文句を言いながらも、とろんとした目をさせている。
一緒にいる男は制服のシャツだけそのままに、ズボンとトランクスは脱ぎ捨てられ、最早、股間の
物も充分に勃起させ、女に覆い被さって、彼女の乳房を舌で弄んでいる。
女の方は全裸で横たわり、男の愛撫にもう耐え切れないといった様子で全身をくねらせた。
「しょうがないだろ、ちはやが急に我慢できないなんて言い出すんだから…そんなにこれが欲しかった
のか…ここに」
男は女の首筋を舐め上げながら、慣れた感じで自分のものを彼女の秘部に挿入させ、動かしだす。
「あ、あ…だって朝あんな事するんだもん…大変だったんだよ…ん…奥まで来ちゃってる…凄い…」
うぉ、これ、まじかよ。
俺はどこぞのエロ小説のような光景に目を奪われていた。
男は繋がったままで軽々と女を抱え上げ、四つん這いにさせると、激しくバックから責め始める。
「あぁ…すごい、さっきより、もっときてる…子宮に響くの…」
「ちはやは後ろから動物みたいに犯されるのが、好きだからな」
「……そんなの、言っちゃ駄目…」
二人の痴態を俺は用具置き場のドアの隙間から覗き込む。
男は俺と同じクラスの香月恭介、女は奴の妹のちはやだ。
二人は互いの身体を貪るのに夢中で、ドアのほうなど気付いている風でもない。
「あ…きちゃう……あぁ…え?」
一瞬、ドアの隙間越しの俺の目と、女の目が合う。やべぇっ!俺は素早くその場を立ち去った。
* * * * * * * *
次の時間、恭介の奴は何食わぬ顔をして席に着いていた。妹は何も言わなかったのだろうか。
刹那、俺の中に怒りが込み上げる。俺が退屈していた自習時間に、恭介の奴は女と!しかも可愛い女
の子とセックスしまくってやがって!妹とやるいう禁忌をたやすく越えて、今も平気な顔をしていや
がって!
俺は瞬時に怒りのやりどころを思いつく。香月ちはやだ。たびたび恭介に会いにこの教室に来ていた
時の様子を思い起こす。いつも、少し、緊張気味におどおどしていた姿。あれならば少し脅してやれば
どうとでもなるのではないかと。
* * * * * * * *
放課後、首尾よく香月ちはやを人気の無い倉庫裏に呼びつける。
「俺今日の2限目の時、見ちゃったんだけどさ…何のことかわかるだろ?」
俯いたままで女は答える。
「……はい」
俺は女のアゴに手をかけ、無理にこちらに向けさせ言う。
「同じ事俺にもさせてくれよ」
女は小動物のように全身を震わせ、それでも俺の目を見つめながら、言った。
「これっきりで許してくれますか」
その真剣な顔に俺はただ頷き、それから存分に女を、香月ちはやを抱いた。
ちはやは俺の知る限り極上だった。
俺相手にその気もないはずだろうに、愛撫するほどに艶を増し、俺の身体に吸い付いてくる肌に、俺
のものを程よく締め付けてくる秘所に、ただ、夢中になり、犯しつづけた。
――こんな体験をして、これっきりに出来るはずはなかった。どうせ気の弱そうな女だ。また脅してや
やればいい。
* * * * * * * *
「よぉ、又ここに来てくれたね」
「もう、終わりじゃなかったんですか」
「忘れられるわけじゃないじゃん、あんな気持ちいいのをさ…抵抗してみる?嫌がるんだったら今日は
ナイフまで用意してるんだぜ、俺」
パチンと折りたたみナイフの刃を開き、見せびらかす。
ちはやがかすかに笑ったような気がした。刹那。俺の懐に飛び込んだ。俺は、異様な熱さを喉と胸に
感じ、いつのまにかナイフを持っていない自分の手で触れる。何か濡れて…え?…血?叫ぼうにも切り
裂かれた喉からは、空気が漏れるばかりで声は出ない。
俺は膝をつき、そのまま倒れこむ。
「先輩がいけないんですよ、約束破るから」
俺は喉を両手で押さえたまま、声のする頭上を仰ぎ見る。
この子が、本当にこの子がこんな手際よい事をやってのけたのか?
「夏ね、船で旅行したんです」
そう言えば、夏休み前に恭介が話していたような気がする。
「お兄ちゃんと私、旅行の後に色々勉強したんです、護身術――ちょっと過剰防衛なのまで含めて」
ちはやは得意げにすら見える様子を見せながら、俺に話す。でも、一体……。
「あ、今、何でって顔してる。でも……教えてあげない。柵の中しか知らない、羊の群れのあなた達
には」
俺の意識が急激に遠のいていく。
「…私たち、あの時から自分の気持ちに正直になることにしたんです…って、もう聞こえませんよね」
それからしょうじょはとてもきれいにほほえんだ。
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