その日の夜は「……はずむ、ちょっと、はずむっ!聞いてるんか?」 お母さんに呼ばれて、慌てて、顔を上げる。 「え、何、お母さん」 呆れ顔で、僕に言う。 「何や、上の空やねぇ、この子は。ぼんやりして…お風呂沸いてるから、お父さん帰っ てくる前に入ったほうがええんと違う?」 急いで立ち上がる。 「うん、入る、入る」 脱衣所にある、洗面台の鏡。ちらっと、自分の顔を見る。 まるで生まれてきてから今までずっとそうだったように、ごく自然な女の子の顔。 僕はついっと目を逸らす。 本当は、こんな自分を見るのはまだ慣れてない。 全身を洗い、お湯につかる。 チャプーン。ちゃんと肩までつかる。目を閉じる。 疾風のように様々な出来事が駆け抜けた今日を思い出す。 やす菜ちゃんの秘密。キス――初恋の人との、ファーストキス。 幸せの絶頂のはずなのに。今の僕は男じゃなくて、女の子の身体で。 キスは、とまりちゃんに見られちゃって、それで僕は――。 喜びと悲しみとイライラと――ぐるぐると頭の中、まとまらずに回りつづける。 バターにでもなりそうだ。いっそのこと、なってしまえばいいんだ。また昔とは違う、 別の僕に。 ブク、ブク、ブク、ブク――頭まですっかり湯船に沈めてしまう。考え事をする時の 僕の癖、これは変わらないみたいだ――プハァ。 湯船から顔を出す。指でそっと唇に触れる、今も残る柔らかな感触。 右手で濡れた前髪をかきあげる。肘に自分の胸が触れる。視線を下に向ける。 おんなのこのからだ、ふたつのふくらみ。 やす菜ちゃんの体もこんなに柔らかなのだろうか、唇だけでなく、彼女の胸も。 両手で自分の胸を包み込み、そうっと、力を加える。 告白してもし、思いが届いていたら、やす菜ちゃんが振り向いてくれていたら、それ から、僕はどうしたかったんだっけ。彼女とお話して、デートして、触れあって、抱き しめて、それから……。 無意識のうちに、自分の胸を愛撫する。人差し指が乳首をかする。 「あ……ん!」 思わず、声が出てしまう。 何、女の子ってこんなに感じやすいの?それとも、僕がえっちな事を考えてたから? 胸だけでこんなに感じちゃうんだったら、ここはきっと、もっと……。 指が股間へとおそるおそる伸びる、と。 「はずむぅ、いつまでお風呂入ってんの、寝てるんとちゃうやろなぁ」 お母さんの声。僕は少し慌てて返事する。 「うん、もうあがるから」 僕は今、何をする気だったんだろう。わかっているくせに、自問する。 お風呂から上がり、早々にお母さんに声をかける。 「今日は、疲れてるから、もう寝るね、おやすみ」 「そうみたいやね、おやすみ」 ベッドに寝転がり、布団をかぶってみる。だけど。 さっきのもやもやが晴れない。パジャマの裾から手を入れ、胸に触れる。僕は寝るとき にブラジャーはつけないから、直に乳房に触ることになる。 柔らかで、それでいて力を加えれば、弾力を持って、指を押し返す。不思議な感触。 乳房が受ける感覚よりも、指先が受ける感触の方が、より気持ちよく、僕はその動きを 夢中になって繰り返す。 段々、乳首が尖っていくのを自覚する。 「…ここ、さっき」 先端を、わざと指でこすりあげる。 「あぅ…ん!」 乳首から全身に電流が走るように刺激を受ける。でも、もっと感じたい…。何度も、 何度も、そこを僕は指先でいじめる。 「ん…ん、ふぅ…」 あそこが、女の子の部分が熱を持っていく。ここ、どうなっちゃってるんだろう。我慢 できずにパジャマのズボンに手を差し込む。下着に指を潜り込ませる。割れ目があって、 もうちょっと下。 ここが、女の子だけの…入り口の手前の襞に触れる…あ…指先にぬるっとした感触。少 し、べとついて、まるで、これが体液であることを主張するみたいに。膣を守るはずの襞 まで湿らせる。 「うそ、こんなに濡れちゃうんだ…」 このままじゃ下着が汚れちゃいそうだ。 僕は横向けに寝なおして、パジャマと、下着を腰をねじりながら、半分だけ脱ぐ。 「拭かないと」 そう呟きながらも、指は探索を続ける。中指が割れ目を探り、潜り込んでいく。そうし て、控えめな突起を見つけだす。押してみる。 「……!」 感じすぎる。気持ちいいのを通り越して痛みすらある。ここって、きっと敏感で刺激 が強すぎちゃ駄目なんだ。 僕は柔らかな襞のところに指を移す。襞を撫ぜてみる。ゆっくりと伝わる快感、奥から、 愛液が湧き上がる。指を濡らす。 「あ……うぅ……」 からだが、あつい。おかしくなっちゃいそう。 「…駄目、こんな事、もう、やめなきゃ」 声に出して自分に言い聞かせる。 それなのに、指は自身への愛撫を止めようとしない。むしろ、より感じるところを探そう とこまやかな動きを見せる。 優しく、慎重になで上げながら襞から上の突起へとゆっくり移る。期待に全身が熱くなる。 突起の内側を、クリトリスを指の腹で優しくなでる。体が勝手にピクンと動く。 「ん…ふぅ…あ」 こんな快感、はじめて。頭の中までじんじんする。 「あ、駄目、駄目なのに…」 女の子なのに、こんなえっちな事している自分。 神聖な女の子という存在を、こんなやり方で汚している自分。 気持ちよさに抗えない自分。 罪悪感もまた、快楽の一部へとすり替わっていく。 「はぁ……ん」 触れるか触れないかの微妙な感覚が僕の背中を震わせる。 自身の指に支配されてる僕の体。 「あ、すごい、気持ちいい、ここって、こんなに、感じちゃうんだ、クリ…のところ」 もどかしくなり、下着と一緒にパジャマのズボンをすっかり、脱いでしまい、それから 仰向けになる。控えめに足を開き、つま先をそろえる。 ふと今、自分がしている格好に気づく。 前に見たHなDVDのとは随分やり方が違ってる…あれは人に見せるためのものだもんね。 でも、きっと今の僕のも、僕のおまんこも、DVDのお姉さんと同じに、ぐちょぐちょに濡 れて、いやらしく、赤く充血した色を見せてるんだ。何か入れてほしそうになってるんだ。 あ、そうか……。 「……指ぐらいなら入っちゃうんだよね」 お母さんから、タンポンを見せてもらったのを思い出す。 『生理ん時にどうしても海とか行かなあかん時とかな』 『えぇ、こんなの入れて大丈夫なの、あの、しょ、処女の…とか』 『どうもないよ。全然ちゃうやろ男の子のとは』 『う、うん、まぁ』 人差し指と薬指で、ぬるぬると濡れる入り口の襞を開き、慎重に中指を入れていく。 生き物の柔らかさを持つ膣へと。指を飲み込むように、僕の中がうごめく。 「あ、う…ん」 あ、熱くて…やわらかいんだ…ここで、指を動かしたらどうなっちゃうんだろう、あぁ でも、やっぱり……。 新たな快感を知ってしまいそうで、自分の指に吸い付く感触も怖くて、指を引き抜く。 「や…っあ!」 抜くときすら、指は快感を自分に与えていく。 ここに入れる行為を求めてたんだ、男の頃の僕は。好きな人のこの敏感な個所を、自分の 凶暴な物体で、貫くことを。擦りあげて、白濁した欲望を吐き出すことを。 今の僕は…入れてほしい…のかな。 指がまた陰唇への愛撫をはじめる。そこをぬちゅぬちゅいわせながら、愛液が伝って、太 ももやお尻の辺までべとべとになっているのにも構わないで。 「とまりちゃんも、あゆきちゃんも、やす菜ちゃんも…」 同じ物を持ってるんだよね。この快感を知ることのできる生殖器を。 あぁ、駄目、そんなこと、考えたら。 脳裏に浮かんでしまう。今の僕と同じように、頬を上気させ、乱れる彼女達の姿。 「駄目だよぉ……こんな時に考えちゃったら…」 今まで、身近な人をおかずになんかした事なかったのに。僕の妄想が止まらない。 とまりちゃんも、こんな風に乱れちゃうのかな。 あゆきちゃんだって、やっぱり気持ちよくて、同じ様に止まらなくなっちゃうのかな。 やす菜ちゃんは、なにで感じるの?自分の指?それとも男の僕の……。 「考えちゃ、駄目なのに、汚しちゃうのにぃ……」 僕の指は動きつづける。左手は右胸を愛撫しながら、人差し指で乳首をいじり、そして右 手の中指は今、知りえる限りの、自分が最も感じる個所を擦りつづける。愛液をそこに塗り たくりながら。体が勝手に小刻みに震える。 もっと…もう、とまらない…。小さく、荒い息が漏れる。 「…っあ…これって、ん…ん」 もう、ちょっとで、僕…いっちゃいそう……あ…なんか…来ちゃう。 「……!あ。ん…!」 膣の中が熱くなる。子宮まで震えているようなイク感じ。 ――女の子って、おなかの中から快感が伝わって来るんだ…。それから、痺れるように、 末端にまで、絶頂感が届いていく。 「っふぅ…ん……はぁ…」 聞きなれない、切なく、あえぐ声が耳に届く。自分の声だった。 濡れた個所をぬぐう。ティッシュ、お母さんに見つかる前に処分したほうがいいのかな、 男の時のと同じように。 体を胎児のように丸める。結局、僕は何の結論も出せないんだ。こんな行為に逃げ込んで しまって。倦怠感と嫌悪感に包まれて。それでも、その疲れは僕を眠りへといざなう。 ゆっくりと眠りに落ちていく自分を感じる。 今日見る夢の中で、僕は女の子のままなんだろうか、それとも……。
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