『 幕 間 』昼休み、いつものメンバーでのお弁当の後、たまたま明日太とあゆきの二人 が屋上に残る。 飲み終えたジュースのパックを脇に置きながら、独り言のようにボソッと 明日太が言う。 「あゆき、これ以上見てるだけなんて、もう、俺には無理だ」 冷静な口調であゆきが言う。 「余計な事をするのはやめなさい、はずむ君を混乱させるだけよ」 「相変わらずの言い方だな」 明日太の皮肉にあゆきはまるで彼が面白い事でも言ったかのように、わずか に口角を上げて笑みを見せる。 「あなたこそ、まるで変わらない――」 彼女の言葉を遮るように、明日太が声を荒げ、もう耐え切れないように叫ぶ。 「あゆき、お前!――お前……何でこの期に及んで、そんなしたり顔が出来る んだよ!」 まるで出来の悪い生徒を前にした教師のように、あゆきはこれ見よがしに肩 をすくめ、聞こえよがしな溜息を一つしてみせる。 「あなた、わかってるの?私達は所詮観客ぐらいにしかなれないわ」 「俺らの立場の問題じゃねえ、気持ちのことを言ってるんだ」 あゆきは余裕ありげに人差し指で眼鏡の位置を整え、薄ら笑いを浮かべて言う。 「気持ち?私の気持ちがわかるとでも……」 「わかるさ……知ってるぞ!お前がこの前、何で目薬買ってたのかも…急に夜更 かしの話題を出すようになったのかも、何でその目が赤いのか……」 「それなら、あなたはどうしたいの」 まるで何も応えていない、とでも言いたげなポーカーフェースをつくりながら、 あゆきは自然と話の矛先を変える。 「言ってやるさ、あいつがどっちも選ばねえんなら、俺がつなぎとめてやる」 「そうやって、あなたが欲しいのははずむ君の心、それとも身体?」 キッと、あゆきを睨みつけて言う。 「『両方だ』って言えばいいのかよ」 「男は残酷よね。自分は夢ばかり語りたがるくせに、女には現実を見せつける」 「男で悪いかよ……」 明日太は無意識に両のこぶしを握り締め、思い出すのがつらいのか眉を寄せる。 「はずむだって男だったさ、俺と違ってお前らの前では遠慮してたけど、一緒に グラビア見て、好みのタイプを言い合ったりだってした」 あゆきは明日太から視線を逸らし、鹿縞山の方を見ながら呟くように言う。 「はずむ君が女の子になって一番嬉しかったのは、誰なのかしらね」 対照的に明日太はあゆきを見据える。 「お前なんじゃないのか、あゆき」 「あら、何故?」 視線はそのままで問い返す。 「永遠に片思いができるだろ」 あゆきは明日太のほうに向き直り、腕を組み、小首を傾げ、問い返す。 「もし、そうだとしたら?」 「……」 あゆきが明日太の目を覗き込むようにして、続けて言う。 「そうだとしたら……私が憎らしい?」 その瞳の奥にある、あゆきの気持ちが明日太にも見えてしまったから。 「そんな…ことはない」 ただ、俯いて答えるしか、術がなかった。
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