キーンコーンカーンコーン
4限目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
しかし、いつもなら真っ先に教室を飛び出して学食に直行する上岡の耳にそれが届くことはなく、彼はボーっとある一点を見つめていた。
「進君、何を見てるの?」
不思議に思った東由利が上岡の席に近づいてきて、声をかけた。
「窓の外さ」
「窓の外?」
「ほら、雪が降ってるでしょ?」
上岡はそう言いながら目でその方向を指し示した。
窓の外には銀色に染まった空間に白い粉雪がふんわりと天使の羽のように舞い落ちている景色が広がっていた。
「あっ……ほんとだ。なんだかロマンチックね」
「へぇ〜……」
「な、なによぅ」
上岡に顔をまじまじと見つめられ、東由利は思わず顔が紅くなってしまう。
「東由利さんでもそんな事言うんだ」
「ちょっと進君?『東由利さんでも』って、どーゆー意味よ!!それじゃあ、まるでわたしがこーゆー事考えちゃいけないみたいじゃないの!!」
「ごめんごめん。今度からは気をつけるよ」
「わかればよろしい」
ペコペコと謝る上岡の姿に東由利は満足そうに頷く。
「ところで進君、これから学食行くの?」
「うん……そうだけど。それがなにか?」
「あのさ……もし良かったら、わたしのお弁当食べない?」
「えっ!?ひ、東由利さんのお弁当!?」
突拍子もない言葉に上岡は我が耳を疑った。当然、東由利は再び不機嫌モードに突入する。
「ちょっと!そんなに驚く事ないじゃない!!」
「ご、ごめん。東由利さんが料理作るなんて、あまりにも意外だったから」
「あー、また言ったな!!」
「ほんと、ゴメン」
「もぅ!せっかく進君のために作ってきたのに」
「えっ!?ぼ、僕のために!?」
上岡は突然の告白にただ呆気に取られてしまった。
別に、上岡と東由利は交際しているわけではない。
上岡と東由利の関係を一言で表現するとすると、友達以上恋人未満、そんな関係だ。
「おい、あの東由利が弁当だってよ」
「ひゅ〜、上岡のやつも隅に置けないね〜」
「上岡、お嬢がいるのに浮気すんなよー」
一気にクラス中の視線が集まり、野次や冷やかしが飛んでくる。
「ねぇ、進君ってば」
「えっと、えっと……」
困惑しきった表情で上岡は天羽を見た。
こんな時の天羽は決まって上岡に助け船をだしてくれる。上岡もそれを期待していた。
しかし……
「よかったわね上岡君。お弁当作ってきてくれる人がいて」
「あ、あの、天羽さん!?」
「私、しーちゃんのところにいかないと」
天羽は微笑みながらこう言うと、教室のドアを壊れるかというくらい力強く閉めて教室を出ていってしまった。
「何よあの態度。悔しかったら自分でも作ってきなさいって言うの」
「あ、天羽さん……」
「さ、進君、はっきり答えてちょーだい!食べるの?食べないの!?」
上岡は今度は弓倉を見たが、彼女はただ無言で首を横に振るだけであった。
諦めろ、というシグナルである。
弓倉でもとめられない通称「聖遼暴走娘」を、上岡に止められるはずがなかった。
「そ、それじゃあ……お言葉に甘えて御馳走になろっかな?」
「ホント!?うん、そーこなくっちゃ!!」
東由利は上岡の腕をガシッと組むと、引っ張るようにして教室を出ていった。
「ちょ、ちょっと東由利さん、一体何処に行くの?」
「えっとね、それは行ってからのお楽しみ」
「でも、何にも持っていかなくっていいの?」
「うん。お弁当、そこに置いてあるから」
「そうなんだ……」
東由利の言葉に一応納得した上岡は、東由利のお弁当というものを色々と想像し始めた。
男勝りの性格をしている東由利の手料理なんて、上岡は考えたこともなかった。
東由利さんのお弁当……一体どんなものなんだろう……
上岡の脳裏には真っ黒く焦げた卵焼きにふんわりとした色合いの卵焼き、まったく正反対のものが同時に浮かんでくる。
手料理という単語とは全く無縁と思われた東由利のお弁当を、上岡はまったく想像がつかなかった。
「さぁ、ついたよ」
「え?ここ?」
上岡は連れてこられた場所に戸惑いを覚えた。
そこは体育館倉庫で、お弁当を食べる場所としてはあまりにも場違いなところであった。
「さ、はいってはいって」
「う、うん」
東由利に促されるまま、上岡はそこに入った。
中にはバスケットボールや飛び箱などがきちんと整頓されており、マットが置かれている。
「それじゃあ、今からお弁当を出すから、進君は後ろを向いて」
「え?なんで?」
「いいから、後ろ向くの!!」
「わ、わかったよ……」
上岡は東由利に言われたとおり、後ろを向くことにした。
「いい?いいよって言うまで向いちゃダメだよ」
「わかったよ」
なんでお弁当の準備するのに後ろを向く必要があるんだ?
上岡は不審に思ったが、それ以上深く考えないことにした。
そんなことよりもこれから出てくる東由利の手料理に、期待半分、不安半分で心躍らせていた。
「まだかい?」
「もーちょっとまてって」
「う、うん」
東由利の返事に上岡は再び口を閉ざした。
お弁当の準備にしては少し時間がかかりすぎている。
一体何をやっているんだ、と上岡は少し不安を覚えた。
「もういいよ」
「え?それじゃあ、もう振り返っても大丈夫かい?」
「うん」
東由利の言葉に、上岡はドキドキしながら振り替えった。
「!!」
そして、次の瞬間、硬直してしまった。
上岡の目に飛び込んできたもの、それはなんの衣服も纏っていない生れたままの姿になっている東由利の姿であった。
「じゃーん。ご注文の鼓ちゃん一人、お待たせしました」
「わ、え、えっと、その、あの、これは……」
「えへへ。ごめん、ちょっと驚いちゃったかな?」
東由利は悪戯っぽく笑うと、舌をペロッとだした。
「ひ、東由利さん、ひょっとしてお弁当って……」
「そ。わたし自身。進君に食べて欲しくって」
「え〜〜〜!?」
「だからほら、早くわたしを食べて」
「え、い、いや、あの、そんなこと言われても……」
「もぅ!!女の子に恥をかかせる気!?男の子なんだから、はっきりしなさい!」
「ちょ、ちょっと待ってよ……」
突然の展開に思考回路がパニックに陥る上岡であったが、東由利の行動がさらに追い討ちをかけた。
「ねぇ、進君。進君はわたしのこと、どう思ってるの?」
「どうって……気軽に話が出きる友達かな……って……」
「そうじゃなくって!好きか嫌いかって聞いてるの!!」
東由利の口調が厳しいものになる。上岡を見る表情は真剣そのものだ。
「え、えっとね……」
「はっきり答えてよ!」
「す、好きだよ」
「ホントに!?」
「う、うん。もちろんさ」
「それじゃあ、天羽さんとわたし、どっちが好き!?」
「えっ!?」
唐突な質問に、上岡は閉口してしまった。
当然、そんな事考えたこともない。
普段から親友の井之上に「お前は優柔不断なやつだ」と冷やかされていたが、まさにそのとおりであった。
上岡としては、一番いい選択肢は二人とも好きだよ、というものである。しかし「両方」といえるような状況では、とてもではなかった。
「ひ、東由利さんだよ」
「ホントに!?嘘じゃないわよね!?」
「ほ、ホントだよ」
「じゃあ、亜希ちゃんとわたし、どっちが好き!?」
「ええっ!?」
さらに難易度が高い質問に、上岡は再び戸惑いを覚えた。
「東由利さんどうしたの?今日はなんだかおかしいよ」
「わたしは真剣なの!答えてよ!!」
「うっ……」
東由利のその切羽詰まったような表情に上岡は真剣に考え、そして結論を出した。
「東由利さんだよ」
「ホントにホント!?」
「ホントだってば」
「よかった……」
東由利の瞳が潤み始める。
「それじゃあ、わたしが好きだっていうこと態度で示してよ」
「え?」
「『え?』じゃないでしょ。キスしてよ」
「ええっ!?ひ、東由利さん、あの、ちょっとそれは……」
「東由利ってゆーな!鼓って呼べ!!」
東由利は怒ったように激しい口調になる。
「それとも、わたしが好きだっていう言葉は嘘なの!?進君は、わたしのこと嫌いなの!?」
「ちょ、ちょっと待ってよ!なんだか今日の東由利さん、変だよ。一体どうしたのさ!?」
東由利の肩をガシッと掴んだ上岡は、真剣な眼差しで彼女を見た。
「……ごめん、進君……」
東由利はハッと我に返ったように、下を俯く。
「進君、今日って何の日か知ってる?」
「今日?」
東由利の言葉に、上岡は眠れる知識の倉庫から記憶を検索し始めた。
12月26日……該当する出来事やイベント、関連事項を消去していき候補を絞り込んでいく。
そして、ひとつの事項に行き当たった。
「もちろん知ってるよ。東由利さんの誕生日でしょ?」
「進君、覚えててくれたんだ……」
東由利の声量が少し小さなものになる。
「わたしね、自分の誕生日が来たら一番好きな人にこの身を捧げようって決めてたんだ」
「ええっ!?」
「………………」
「で、でも、東由利さんの好きな人って、武士じゃ……」
「武士君はただのお友達!!」
「そ、そうだったの!?」
「実際武士君から告白されたよ。でも、きっぱり断った。どうしてだと思う?」
「そ、そんなこと聞かれても、わからないよ……」
「進君がいたからよ」
「えっ!?」
「わたし、進君のことが好きだから、他の人とは交際する気になれなかったの」
「東由利さん……」
「進君のこと、入学当時からずっと見続けてた。最初は武士君のお友達って言う観点でしかなかったけど、何事に対しても真剣に取り組む進君を見ているうち……」
「………………」
「でも、いいの。わたしのわがままだっていうのは分かってた。進君もきっと同じきもちだろうって、進君の気持ちも確かめないうちに……ごめんね」
「そんな事ないよ、鼓」
「えっ……?」
瞬間、上岡は東由利を力強く引き寄せ抱きしめると、強引にその唇を奪った。
「んっ……」
東由利は静かに目を閉じると、両手を上岡の首筋にそっとまわした。
東由利の心臓の鼓動が、柔らかい胸の膨らみを通して静かに上岡に伝わってくる。それは東由利にも同じであった。
「進君ってば……強引なんだから……」
「ごめんごめん。鼓があまりにも魅力的だったから……」
「もう……バカ……」
東由利は上目遣いに上岡を見やると、恥じらいながら言った。
「わたし、進君とひとつになりたい」
「僕もだよ、鼓」
これほど自分を思ってくれってる人が身近にいたことを、上岡はとても嬉しく思っていた。そして、その好意を踏みにじるようなことは上岡には出来なかった。
上岡はベルトを緩めてズボンをおろすと、いきり立っているペニスが現れた。
「それじゃあ鼓……入れるよ」
「う、うん……」
上岡はゆっくりと、東由利の感触を確かめるように入れていった。
「ああ、ど、どんどん入ってくる!」
「大丈夫か?鼓」
「う、うん。わたしのことは気にしないで、進君のしたいようにして」
「わかったよ」
東由利の言葉を確かめると、上岡はゆっくりと腰を動かし始めた。
「あっあっあっあっあっ!」
「つ、鼓の中って、結構キツいんだね」
「そ、そんな恥ずかしい事言わないでよ!進君のバカ!!」
「そんな事言うなら……こうしちゃうぞ!」
上岡はピストン運動の速さを上げた。
「あああああああっ!!そ、そんなに速くしないで!!」
一段と東由利の喘ぎ声が高くなる。
「どうしてだい?」
「だ、だって進君のが、わたしのお腹でおっきくなって暴れて、お、おかしくなっちゃいそう!」
「おかしくなってもいいんだよ。鼓がそうしたいんなら」
「で、でも、そんなことしたら進君が……」
「鼓が気持ちよければ、僕も気持ちいいよ」
上岡はさらに速度を上げた。
ぱんぱん、と肉のぶつかり合う音が、静かな体育館倉庫の中に響き渡る。
「だ、ダメ!!そんなに強くしたら、わたしイッちゃう!!」
「そのつもりでやってるんだから、遠慮なんかしなくってもいいよ!」
「あああっ、い、いいっ!!すっごく感じる!!」
「僕もだよ!!」
「進君、わ、わたし、もうダメ!!イきそう!!我慢できない!!」
「ぼ、僕も、でそう!!」
「ああああああああああああああああああああああっ!!」
「くっ!!」
上岡はすんでのところで自分の肉棒を引き抜いた。
東由利めがけて白濁の液体が勢いよく放たれる。
あっという間に東由利の身体は上岡の精液まみれになってしまった。
「はぁはぁ……」
「ふぅふぅ……」
行為を終えた二人はお互いにマットの上に寝そべると、余韻を楽しむかのように互いに唇を重ね合わせた。
「わたし達、結ばれたんだね」
「そうだな」
「進君……」
「なんだい?」
「天羽さんや亜希ちゃんと浮気したら、許さないんだからね」
「僕こそ、鼓を放さないよ」
「うん!」
そして再び、二人は互いの唇を重ね合わせた。
雪の降る日に体育館倉庫で結ばれたカップルは永遠に幸せになれる……それは、聖遼学園新七不思議伝説の誕生した瞬間であった。