7月3日

 夕鈴ちゃんが家に来てから今日で一週間になる。
 当初は楽しい生活を夢見てたボクだったけど、現実の世界は想像とは大きくかけ離れていた。
 僕は何とか夕鈴ちゃんの心を開こうと頑張ったけど、彼女はそんなボクの気持ちをちっとも理解してくれない。
 どんなに面白い漫画を渡しても、全然見ようとしてくれない。
 どんなに明るい音楽をかけても、全然聴こうとしてくれない。
 どんなに楽しい話題を振っても、全然話しをしようとしてくれない。
 夕鈴ちゃん……どうして?
 今日は夕鈴ちゃんが家に来てから丁度1週間目の、いわば記念すべき日なのに……
 相変わらず彼女は一言も喋ってくれないけど何かプレゼントをあげて夕鈴ちゃんの機嫌を取りたいと思う。
 でも……彼女は一体何が好きなんだろう……?
 考えても仕方がない。僕は思い切って夕鈴ちゃんに聞いてみた。
「夕鈴ちゃん、君は何が欲しい?」
「………………て……」
「ん?」
「……え……か……して……」
「よく聞き取れないよ。もうちょっと大きな声で言っくれない?」
「家に……私を家に帰してください!!」
 彼女は弱々しく呟くと、鳴咽を漏らし始めた。
ボクはその姿を見てとても失望した。
 なんで泣くんだ!僕は正しいことを……君のためになることをやってるのに!!
「うっせーぞ!!泣くんじゃねえ!!」
 ボクは夕鈴ちゃんのみぞおちの辺りを蹴り上げた。
 彼女は声にもならない悲鳴を上げて倒れ込む。
 ボクは護身用のバタフライナイフを取り出すと、苦しそうにのたうち回る彼女にチラつかせた。
「いいかい?君を殺すことなんて簡単なんだよ。わかったらメソメソ泣くんじゃねえ!!」
しかし夕鈴ちゃんはそれでも泣きやもうとはしなかった。
 ……ちょっとかわいそうなことをしたかな?
 罪悪感がボクの心の中を支配し始める。
 ここは夕鈴ちゃんにお寿司でもプレゼントして、機嫌を直してもらおう。
 そうと決めたボクは夕鈴ちゃんに手錠をかけてから部屋を後にし、一階の台所に向かった。
 台所ではちょうど母さんが食器を洗っていた。
「おいババア」
「ど、どうしたのボクちゃん?」
「わりぃが今すぐすし屋に行って特上にぎり3人前買ってきてくれ」
「い、いいけど……」
「あん?なんか文句あんのか?」
「う、ううん、そうじゃないんだけど……」
「じゃあなんなんだよ?言いたい事があるならはっきりと言えよな!!」
「じゃあちょっと聞くけど……」
「なんだよ?」
「その……ボクちゃんの部屋に誰かいるの?」
「誰もいねぇよ!!早く買ってこい!!」
「は、はぃ!!」
 それだけ言い残すと、母さんはそそくさと家を出ていってた。
 まったく……余計なこと勘ぐりやがって……。
 お前は俺の奴隷なんだから、ただ俺の言われた通りに動いていればいいんだよ!!

それから2時間後、母さんが買ってきたお寿司を夕鈴ちゃんのところに持っていったが、結局食べてくれなかった。
はぁ……夕鈴ちゃんの機嫌損ねちゃったかな……


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