「あ、先輩!ちょうどいいところに!!」
その日、俺が恵理子の店へ顔を出すと、いつにも増して上機嫌な恵理子がいた。
「どうしたんだ?そんなに上機嫌で?」
「ふふーん。ついに買っちゃった」
恵理子は浮かれた様子で、近くにあった椅子を指す。
それは、どう見てもマッサージチェアだ。
「それは?」
一応、念のために聞いてみる。
「見ての通り、最高級マッサージチェアよ!」
予想通り、何の捻りもない答えが恵理子から返ってくる。
「やっぱ、リラクゼーションって必要よねー。つばめの相手してると、どうしても疲れちゃうから」
そしてもっともらしく、ため息をつく。
いつも自爆しているようにしか思えないんだが、この言葉は一体どこから来るのだろう。
「あーあ。本当はこんなのに頼りたくないんだけどなぁ。それもこれも、全部先輩がいけないのよね、うん」
「すっげー責任転換」
俺の呟きに、恵理子は俺を睨みつける。
「何か言った?」
「いいや、別に」
俺はため息をついて、マッサージ椅子をポンポンと叩いた。
「お前が、まともな商品仕入れるの、初めて見たからな。実はとんでも製品だったりして」
「失礼ね!」
俺の言葉に恵理子はむくれる。
「私だってちゃんとしたものを買うわよ!いいわ!証明してあげる!!先輩には絶対使わせてあげないんだからっ!」
そして椅子に深く腰掛けると、リモコンのスイッチを入れた。
「えっと、『リラックスコース』ボタンを押して、と」
そして両手を肘掛に置く。
ウィーーーンとローラーが動くモーター音。
すると、突然マッサージ器から鉄のわっかが出てきて、恵理子の両手両足を拘束した。
「な、何これ!?」
突然の出来事に、恵理子は戸惑いの声を上げる。
「やっぱりな……」
俺はため息をつくと、マッサージ椅子のポケットに挟んであった説明書を手に取り、ぱらぱらとむくった。」
「えーっと、何々?『快適なマッサージを堪能していただくためにマッサージ中は両手両足を拘束しますが、マッサージ後は開放されます……』だって。よかったな」
「よくない!何そのユーザーに不親切な設計は!?」
恵理子は抗議の声を上げるが、こうなってはどうしようもない。
そうこうしているうちに、ローラーが恵理子の肩の辺りでウィンウィンと動き出した。
「あっ……」
恵理子の目がトロンとなる。
「訂正。やっぱり最高級マッサージチェアは違うわぁ……」
恵理子は気持ちよさそうに、その身を委ねる。
「先輩にはこの気持ちよさは、きっと永遠にわからないわね」
「へいへい。よかったな」
「あ、でも、先輩がどうしてもって言うなら、使わせてあげても……おっ!?」
突然、足が開いていく予期せぬ動作に、戸惑いの声を上げる恵理子。
「おっ」
俺も思わず声を上げる。まさかこんなところで大股を広げる女の子を見れるとは。
まぁそれが恵理子だと言うのが、不満ではあるのだが……。
「ちょ、ちょっと何これ!!再訂正!!こんな欠陥品つき返してやるんだから!!」
恵理子は暴れるが、手足を拘束されてどうすることもできない。
「おー。流石は最高級マッサージ器。ピンクのしまパンか」
「ちょっと!!何見てるのよ!!先輩早く止めてよ!!」
「いやぁ、止めろって言われてもなぁ。どうやって止めればいいんだか……って言うか、自業自得?」
「サイテーーーー!!」
恵理子は抗議の声を上げる。
とりあえず、面白いからこのままにしておくか。いい目の保養になるし。
なんてのん気なことを考えていると。
ダン!と勢いよく戸が開かれ、つばめが姿を現した。
「楠瀬先輩……恵理子……今度はどんないかがわしい遊びをしてるんですか?」
「えっ!?」
思いがけない言葉に、俺は声を上げる。
ひょっとしてつばめの奴、何か思いっきり勘違いしている!?
「ままま、待てつばめ!!お前は勘違いしている!!これはだな、恵理子の奴が……」
「問答無用です!!」
つばめは有無を言わさぬ様子で俺の言葉をさえぎると、竹刀を構えた。
「今日こそ、特大の反省をしていただきます。オシオキです!!!」
「ぬ、濡れ衣だあああああああ!!」
俺の抗議の声もむなしく、つばめの竹刀は振りおろされた。