第12話
おみくじ1等デート権

 その日、俺がいつものようにエンジェルショップ『ERICO』へ出向くと、いつもとは違った風景が、そこには存在していた。
 殺風景な店内は煌びやかに装飾され、店内を照らす蛍光灯の明るさもいつもより無駄に明るい。そしてカウンターに座っている店主はというと、オレンジ色の法被を着て、これまたいつもよりも笑顔になっている。
「なんだこれは……」
 俺は絶句し、すぐさまトラブルに巻き込まれる予感を感じずにはいられなかった。
「いらっしゃいませ、センパイ」
 恵理子は逃がさないぞとばかりに、ニコニコしながら、広告を掲げる。
「今日は新製品発売のキャンペーン中なの。ほら、これなんかどうかな?」
 そして恵理子は広告の片隅を指差す。
 そこにはいかにも怪しげな雰囲気が漂うお守りの写真が掲載されていた。
「これはね、古代アステカの遺跡に眠っていたと言われている恋愛成就のお守りで、これを身に着けていると……」
「わかったわかった」
 俺は説明を遮る。
 今日はいつもより余計に変な商品を押し付けられそうな気がする。早めに退散したほうがよさそうだ。
「それじゃあ、俺はこれで……」
「あっ、待ってよ先輩。来たばっかりなのに帰らないでよ」
 そんな俺を、恵理子は呼び止める。
「今日は新製品発売キャンペーンだから、お買い上げ1万円毎に福引をやってるのよ。先輩もやってってよ〜」
「福引?」
 俺はその言葉に足を止める。
「そっ。一等商品は何と、つばめとデートできる権利!!」
「な、なにぃぃぃっっ!?」
 その世にも戦慄的かつ魅力的な言葉に、俺は恵理子を見ずにはいられなかった。
「ふふん。どう?あたしだって、やるときはやるのよ」
 恵理子は得意げに胸を張っている。
「こうでもしないと、やっぱ福引のありがたみって言うものがないものね。というわけで……」
 俺を見ながら一呼吸をおき、とんでもないことを口走る。
「どれ買ってく?」
 ニコニコしながらそんなこといわれても困るんだが。
 でも、ここで断ったら、つばめとのデートの権利が、他の奴らに奪われてしまう可能性が高い。
「ちなみに、さっきのお守りだけど、つばめも買ったから、先輩も買えばつばめとお揃いだね」
「よし、それを買おう」
 俺は即決した。つばめとお揃い、なんていい響きなんだ。
「はーい毎度有り。1万円になります」
 俺は少し躊躇したが、財布から1万円札を取り出し、恵理子に手渡す。
「えへへ……毎度あり〜」
 恵理子はホクホク顔で俺から代金を受け取ると、抽選機をカウンターの上に置いた。
「さ、先輩。勢いよくガラガラまわしちゃってー」
「お、おう」
 俺は抽選機に手をかけ、一呼吸おく。
 神様……どうかデート権が当たりますように……!!
 思いをこめて、一気にまわす。
 そして出てきたのは……赤色の玉だった
「大当たり〜」
 恵理子がカランカラーンと鐘を景気よく鳴らす。
「おめでとうセンパイ!大当たりだよ」
「ま、マジか!?」
「うん」
「や、やったあー!!」
 俺は心のそこから喜びを口にする。
 ついに、ついにつばめとデート……!
「よかったね先輩。『つばめとデートする権利』が当たる抽選に参加できる権利が当たって」
 しかし次の瞬間、恵理子の悪魔的な信じられない言葉を耳にして、喜びが一気に吹っ飛んでしまった。
「な、なんだそれは……?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
 恵理子はきょとんとした表情で、物騒なことを口走る。
「つばめとのデートは競争率が高いから、そのデート権をゲットするための抽選に参加できる権利が必要なんだよ」
「ちょっと待てや!!それ詐欺だろ!?」
「なーにいってんの。男は細かいこと気にしない」
 恵理子はケタケタ笑いながら別の抽選機をカウンターの上に置く。
「さ、先輩回してまわして。例えデート権が当たらなくても、損をさせない仕様になってるから」
「何だよそれ……」
「いいからいいから」
「……はぁ」
 俺はため息をつくと、抽選季のとってを握った。
 どうせ恵理子のことだ。当たりなんか入ってないに決まっている。ぬか喜びした俺が馬鹿だった。
 力なくガラガラとまわす。そして出てきたのは……案の定、白い玉だった。
「はーい残念」
 恵理子はニコニコしながらカウンターの引き出しから、写真を1枚取り出した。
「残念賞は、つばめのセミヌード写真でーす」
「な、なんだって!?」
 俺は恵理子から奪い取るように、その写真を手にする。
 そこには水着がはだけた、手ブラで胸を隠している恥ずかしそうな表情のつばめが写っていた。
「どう先輩?これなら満足でしょ?」
「あ、ああ……」
 俺は一瞬思考が止まる。
 嬉しさよりも、何か違和感が俺の脳裏に駆け巡る。
 あれ?これって……デジャヴ?
 ……ま、まさか!!
「そこまでです!!」
 写真をつき返そうとした瞬間、凛々しい声が飛び込んでくる。
 ああ、見たくない……またこのパターンかよ……
 俺はそう思いながら、恐る恐る声の主を見る。
 そこにはやはり、竹刀を構えたつばめが立っていた。
「恵理子……楠瀬先輩……私にそんないかがわしいことさせようとしていたなんて……絶対許しません!!」
「ま、待ってよつばめ。話し合えばわかるよ」
「そ、そうだぞつばめ。少しは人の話を聞いてだな……」
「問答無用です!お覚悟!!」
 言うや否や、つばめは突進してくる。
 そして、惨劇は繰り返されるのであった。


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