その日の放課後、慎一はいつものようにエンジェルショップ『ERICO』へと呼び出されて、イヤイヤながらも甘美な夢と悪夢な現実が交差する禁断の場所へとやってきた。
恵理子は慎一が来るやすぐさまドアの札を「CLOSE」にかけかえ、さらに用心深くドアをロックし、慎一を店内の奥にある秘密部屋へと連れていった。
その部屋はどうやら恵理子の研究室らしく、怪しげな機材やら書類やらが地面に散らばっている。
「……で、俺に見せたいものって?」
「これよこれ」
恵理子はPCのスイッチを入れると、おもむろに慎一を見た。
「ねぇ先輩。先輩って、プロレスとか好き?」
「はぁ?プロレス?……まぁ、好きって言えば好きだけど……」
「そう、よかった」
慎一の答えを聞くや、恵理子はにっこりと微笑んだ。それがさらに慎一の不安を増大させる。
「お前、今度は一体何を企んでるんだ?」
「うん、ちょっとつばめにオシオキする方法をね」
恵理子はとんでもないことを平然と口走り、マウスを操作しファイルをクリックする。
「今までは対策も何もないに等しい状態だったから失敗ばっかしてたけど、今度からはそうはいかないんだから。先輩にプロレス技身につけてもらって、つばめをギャフンと言わせてあげるんだから。あ、帰るなんて言い出さないでよ。見て行くだけ見ていってよ。ね?お願い先輩」
恵理子は慎一に喋る暇を与えるまもなく強引に退路を断つ。
「まぁ、見るだけならいっか……」
慎一は軽い気持ちでコクンと頷いてしまった。
それが悪夢への一直線とも気づかずに……
「それじゃあ、スタート」
恵理子がファイルをダブルクリックすると、何かのゲーム風なデモ画面が流れ始めた。
「なんだこれは?」
「プロレスのシミュレーション。コッチの黒革レザーがつばめで、コッチの黒いショートタイツが先輩ね」
「…………」
恵理子の言葉に慎一は絶句した。
つばめといわれた女性キャラは、まるでSMの女王様のようなテカテカレザーに身を包み、鞭を手に持っている。
対して慎一といわれた男性キャラは、やけに股間が盛り上がった黒いショートタイツ姿だ。プロレスではよくデビューしたての若手がしている格好だ。
どちらのキャラも、顔がつばめと慎一に似せて作られている。
「まずはこの技から。つばめの背後に回りこんで、脚をフックして体をねじりあげてついでに股間を握り締める、名づけて『コマラツイスト』!!」
「ぶっ!!」
いきなりの卑猥な技名に、慎一は思わず噴出してしまった。
「あ、でもつばめって女の子だからチンチンついてないよね。じゃあこの技名は不適当かな?それじゃあ次」
しかし恵理子はこともなげに次の技へと移る。
「次の技。つばめを逆さまに持ち上げて、つばめの顔を先輩の股間に、つばめの股間に先輩の顔を押し付けて、そのままつばめの脳天をマットに突き刺す『69ドライバー』!!」
「な、なんじゃそりゃ!?」
「えー!?できないの!?それなら、つばめをコーナーポストに振って、座り込んだつばめの顔に先輩の股間を押し付ける『ペニスウォッシュ』!!略してPWってことで」
「だ、だから……」
「それでもだめならつばめを適当にマットに寝かせて、両足を持って開かせてそのまま股間にダイビングヘッドする『クンニヘッド』とか」
「ちょ、ちょっと……」
「腕が開いてるようなら『M十字固め』で腕を使い物にならないようにしちゃって」
「お、おい……」
「で、弱りきってるつばめの体を持ち上げて、『駅弁固め』をきめちゃって」
「あ、あの……」
「それで最後は昇天させたつばめへ『M字フォール』で恋の3カウント奪取と、完璧でしょ!?」
「全然完璧じゃありませんっ!!!」
突然、二人の会話をさえぎるかのように、怒声が割って入ってきた。
「げっ!?」
「あっ!?」
そこには怒りに身をプルプル震わせているつばめの姿がある。いつの間にかドアは開いていた。
「さっきから卑猥な単語を連呼して……絶対許しません!!」
「ちょ、ちょっと、その……」
「こ、これは……」
「オシオキです!!」
つばめは竹刀を振り上げた。
そして、惨劇は起こるのであった。