第1話
秘密の潜入レポート

 やっほー。恵理子だよ♪
 今日はその、なんていうか。
 つばめちゃんのレポートをしてみようかと思って。
 えっ?どうしてそんなことをするのかって?
 だってほら、先輩だって気になるでしょ?
 つばめがどんな私生活を送ってるのかって。
 えっ?人権侵害?プライバシーを無視してる?
 細かいことは気にしない♪
 それに、つばめにはちゃーんと今日遊びに来るって言ってあるもん。
 ……もっとも、あたしが頼んでおいたモニターの効果がそろそろ出てるころだと思うけど……
 えっ?何を頼んだのかって?
 うん、ちょっとね。新しくお店で扱うお茶の味見を……睡眠導入剤入りだけど。
 だから今頃ぐっすり眠ってるはずー。
 というわけで、ビデオ片手に、早速つばめの部屋にレッツらゴー♪
 おじゃましまーす。
 まったく……鍵もかかってないなんて、無用心なことこの上ないような気がするけど。
 さてさて、つばめの部屋は階段を上がって2階の突き当りの部屋……ここ、ここ。
 はーい。これが愛しのつばめちゃんの寝顔でーす。
 とってもかわいいですねー♪
 天使の微笑?無垢な少女?
 まぁ、気に入ったタイトルは先輩が自分で考えてね。
 でもかわいすぎるから、ちょっと悪戯したくなっちゃうかも。
 あ、こんなところに水性のマジックが。
 とりあえず額に『肉』の字……っと。
 ちょび髭は流石にやらないけど、やっぱこれは基本だよねー。
 先輩もそう思うでしょ?
 うーん……でもこれだけじゃつまらないかな?
 そうだ。出血大サービスで、つばめの下着も見せちゃおう。
 こんな時じゃないと出来ないしね。
 先輩、今とってもドキドキしてるでしょ?
 先輩のエッチ。
 まぁ、男の子だったら仕方ないかな?
 つばめの下着の色は何色かな?
 やっぱ純白?それともピンク?大穴で黒だったりして。
 それじゃあ早速、パジャマのボタンを外して……

「ここでストーップ」
 恵理子は意地悪く笑いながら、リモコンの停止ボタンを押した。
「あっ、なんだよそれ!?もうちょっと見せろよ!!」
 慎一は抗議の声を上げるが、恵理子は首を横に振る。
「ダメダメ。バカ言わないでよ。それじゃあ商売にならないでしょ?ココから先は、買った人のお楽しみなんだから」
 そして鼻でフフンと笑う。
 それはまさに、慎一が購入することを見越しての勝利宣言であった。
 慎一が恵理子に「ちょっといい物があるんだけど」と呼び出されたのが昼休みのこと。
 また怪しげなものを買わされるのかと慎一は落胆しつつも、断わるわけにはいかず、そして放課後、二人は校舎裏で密会していた。
 そこで見せられたのが、つばめの私生活を収めたDVD映像だったりする。
 少しだけ良心が痛むが、それ以上に好奇心が勝ってしまい、慎一の良心はどこかへと吹き飛んでしまった。
「こんな掘り出し物はめったにないよ?今買っておかないと、とっても損だよ?」
「確かに掘り出し物には違いないが……うーん……」
「これを逃がすと、もうチャンスないけど、それでもいいのかなぁ?」
 恵理子は慎一の目の前で、DVDをひらひらさせる。
「うーん……」
 恵理子の言葉に、慎一は目を瞑った。
 確かに、慎一の知らないつばめを見られるという点では唾が出るほどほしい作品だ。
 でも果たして、つばめの気持ちを考えた場合、そんなことをして許されるのだろうか?
「つばめの下着の色とか気にならない?」
 絶妙なタイミングで、恵理子が悪魔の囁きを仕掛けてくる。
 つばめの下着……気になる……ああっ!!
 慎一は欲望に負けて、財布を手に取った。
「しょうがないなぁ。買ってやるよ」
「うんうん、人間、素直が一番。我慢は体に毒だもんね」
「はい、代金」
「毎度あり〜」
 恵理子は代金を受け取ると満足そうにウンウンと頷く。
 一方DVDを受け取った慎一の表情も緩みっぱなしになっていた。
 慎一の心境はというと、罪悪感1割、期待9割と圧倒的に好奇心の方が勝っていた。
 この中に俺の知らないつばめちゃんが……
 そう思うとわくわくせずにはいられない。
「もう一本買っとく?保存用に」
 恵理子はニタニタ笑いながら、DVDのケースを差し出した。
「二本目ってことで、安くしとくけど?」
「いや、二本目はちょっと……」
「いいのかなぁ?トラブルはどこに潜んでるかわからないよ?もし消えちゃったりしたら……」
「そう言われると……」
 慎一は少し頭を悩ませる。
 確かに消えてしまっては元も子もない。不測の事態に備えて、もう1本くらい買っといてもバチは当たらないだろう。
 そして顔をあげた。
「それじゃあ……」
「私にも1本ください」
「はーい、毎度あり……へっ?」
「えっ?」
 突然横から聞こえた聞き覚えのある声に、慎一と恵理子は慌ててその方角を見る。
「げっ!?」
「あっ!?」
 そして二人は、同時に言葉を失った。
 そこには、まるで天使のような微笑を浮かべたつばめが静かに立っていた。
 嵐の前の静けさと言うべきか、静寂が辺りを包み込む。
 つばめの手には竹刀がギュッと握り締められていた。
「恵理子……楠瀬先輩……ちょっとよろしいですか?」
「あっ、いや、まてつばめ!!これにはだな、マリアナ海溝よりも深いわけが!!」
「そ、そうよ!!楠瀬先輩がつばめの私生活を撮って欲しい、なんて頼むからあたしはね!!」
「あっ、てめえ!!人のせいにするか普通!?」
「だってそうでしょ!?あたしは悪くないもん!!」
 ビシッ!!
 二人の口論に割ってはいるかのように、竹刀の乾いた音が響き渡る。
「二人とも……とっても仲がおよろしいんですね……」
 つばめの言葉に、慎一と恵理子はピタリと口論をやめた。
「でも……そろそろオシオキの時間です……」
 つばめはにこやかに微笑んだまま、竹刀を構える。
 そして……惨劇が起こるまでに、そう時間はかからなかった……


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