「いやぁ、よかったよかった!」
 テレビを見ていたニーナは開口一番、そう喜んだ。
 もちろんこの言葉には二通りの意味がある。
 ひとつは今ニュースでやっているミスタートリックの逮捕。
 そしてもうひとつは百合と通のデートについてである。
「でも、初めてのデートにしてはちょっと刺激が強すぎたかな?」
「そんなことありませんよ。とっても楽しかったですし。それに……」
「それに……?」
 百合は恥ずかしそうにうつむくと、手提げカバンの中からチケットを一枚取りだした。
「通君が『今日はゴメンね。あの、もしよかったら次の休みに遊園地に行かない?』って、このチケット渡してくれたんです」
「なにぃ!?すっごい通展じゃないの!!」
 ニーナは笑いながら百合の肩をバンバン叩く。
「もう2人の中は一気に急接近って感じね。後は告白だけよ!!二人だけの遊園地で彼のハートをゲットよ!!」
「あっ、いえ、今度は二人きり、ってわけじゃないんです」
「えっ?」
「今度はその……三森ちゃんもいっしょなんです……」
「なーんだ。つまり新聞部の取材にお供するってわけね?」
「は、はい……」
 ニーナはため息をつくとしょうがないなぁといった表情を浮かべる。
「ま、チャンスなんていくらでもあるんだから。気にしないことよ」
「そ、そうですよね」
 百合も赤くなりながら頷く。
「しっかし、今回はとんでもない事件だったわね」
「『汚れてしまった神の手!!』『世紀の大詐欺師、現る!!』とか、センセーショナルな見出しをつけているようですね」
「まったく、流すほうは楽でいいわ。こっちの気も知らないでさ」
「そうですね」
「ところで、あたしも新作のマジック取得したんだけど、見て貰えるかな?」
「えっ?マジック、ですか?」
「そっ。消失マジック」
 ニーナはニヤリと笑うとテーブルの上に置いてある皿にのっているイモようかんに右手を突き出し、目を閉じて念を送り始めた。
 百合も黙ってその様子を見守る。
 10秒、20秒、30秒……時間だけが過ぎていく。
 そして1分が経過しようかという時、ニーナがカッと目を見開いた。
 途端に右手が物凄い早さでイモようかんに突通していき、ひょいとひとキレ摘むとそのままパクッと自分の口の中へ放りこむ。
「……………………」
「……………………」
 無言になる二人。
「……ニーナさん、それ、マジックじゃないんじゃ……」
 百合はあきれながら言葉を発する。
「なにいってるのよ百合ちゃん。ちゃーんと芋ヨウカンはあたしのお腹の中に消えたわよ?」
 対象的にニーナはしてやったりといった表情になりながらそう答えると、緑茶をすするのであった。
    


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