抜粋

 部屋の中にはいると、この屋敷に入ったときと同様扉は軽い音を立てて閉じた。それが開くかどうかの確認を江崎はもうしない。きっと無駄だろうと分かったからだ。だいたい確認しようにも、閉じた扉がどこか分からないほどそれは壁にとけ込んでいた。部屋は真っ白で何もなく、寒々としていた。さほど広くもなく、さりとて狭いと言うほどでもない。ただ何もない真っ白なその部屋は異様な圧迫感を江崎に与えた。
『いらっしゃいませ。お名前を伺えますか?』
 ホールで聞いたのと同じ声。やはりホールにいたときと同じようにどこから声が聞こえるのかは分からない。いらっしゃいと言うからには、ここは店の様なものなのだろう。だとするとサービスを終えればきっと買えることが出来る。江崎はそう自分に言い聞かせて成り行きに身を任せることにした。どのみちそうするしかできない。
「江崎」
『江崎様。男性、女性、どちらを望まれますか?』
「? 男?」