抜粋
『どうぞ、前の円までお進み下さい。あなたの情報をいただきます』
言われる言葉に従って、伊沢は前に進んだ。ホールの中央近くの床に、魔法陣だろうかというような円と、入り組んだ文様が描かれている。その上に足をそろえて立つと、ふわり、と下から光が上がった。魔法陣様のものから光が溢れ出ている。眩しい光に目を閉じていると、先ほどと同じ人口音声が響く。
『身長百七十二センチ、体重五十五キロ。男性。どの部屋をお望みですか?』
光は一瞬で終っていた。それだけで身体検査ができるのかとどこかで感心しながら、目の前に浮かんだ光のプレートに少し驚く。四×四で正方形の升目があって、一番最後は矢印。なんだかラブホテルの部屋を選ぶみたいだよなと行った事もないのに伊沢はそんな事を思う。大きな葉が一枚記されたマーク。縄の束、馬、炎、飲食物、犬、角の生えた人、鏡、目……。抽象的なマークだ。それぞれに意味があるのだろう。じっとにらむようにしてどれにするかと悩んでいると、一定の間隔を置いて『どの部屋をお望みですか?』と催促の声がかかる。
いろいろと悩んだ末、伊沢は目のマークを選んだ。自分の欲求を満たすには、これが一番適しているような気がしたのだ。……読みを誤っていなければ。
ふわ、と一度そのマークがひかり、他が消える。なにやら処理されているような間があった。
『了解しました。それでは三階に上がって、すぐ左の部屋へとお入り下さい。お時間は一刻となります。時間終了前にお尋ねしますので、延長のご希望がありましたらお申し出下さい。それでは、ごゆるりとお楽しみ下さい』
|