抜粋

「ごめん、宮井君。……碧……」
 生徒会室に入って椅子とお茶をすすめられ、なんとか体を落ち着けたところで天野さんはいきなりそう言って頭を下げてきた。碧。随分久しぶりに聞く自分の名前に胸が騒ぐ。でも、僕はこんなふうに過って欲しかった訳じゃない。吃驚して何がなんだか分からないと言うように少し目を見開き、首をかしげる。
「あの時会ったのは、君だったんだろう?」
「だから、あの……何のこと……」
 思い込むと突き進むタイプだったらしい。天野さんはあまり僕の答えを聞いてくれる気がないみたいだ。確かに言っていることは間違っていないけど、僕にはそれを肯定する気はない。
「絶対に見つけるなんて言っておいて、結局間違えて……。本当にごめん……」
 いいんです。だって、皆間違うんだから。皆、スイに声を掛けるのだから。
「だから、天野さん。僕には何のことだか……」
 だから、認めると悔しいから。絶対に認めない。
「間違えた俺が許せない?」
 許せないんじゃない。もう、諦めているから。そんなことでいちいち憤っていては、身が持たないから。
「天野さん、僕の話、聞いてます?」