抜粋
「……好きだよ、直樹」
はかったわけでもなく、ただ自然に出てきた言葉だった。だがその言葉に直樹は激しく反応して、体をはなして振り仰ぐ。その目はまるで信じられないものを見るかのように驚きに満ちあふれていた。
「うそ」
ぽつりとつぶやき、顔をふせるようにして平田の肩にもたれ掛かり、力なく首をふる。
「芝居につきあってくれるだけだって、だから……」
「好意も持ってない相手の、こんな芝居につきあうようなこと、すると思ってたの、本気で?」
それは、直樹だって考えないではなかった。何故これほどまでによくしてくれるのか。週末を全て潰し、高校生のお遊びにつきあって何が楽しいのか、と。いや、お遊びとすら言えない。ただの気晴らしだ。平田にはなんら得になることもない。
「最初から気になってた。だから、部屋にもつれてきた。毎週会う約束もしたし、できもしない我慢もした」
言いつのる平田の言葉を、直樹はまだ首をふって否定する。それが聞いてはいけないことであるかのように。そうしてぼそぼそと、抵抗を始める。
「……何も、言わなかった」
「今言っただろう?」
「名前だって……。ずっとナオって。ちゃんと教えてたのに……」
「今呼んだよ。聞いてなかった?」
「……何も、しなかった」
「無理矢理我慢してた。そう言っただろう? それに、キスくらいならしてるよ?」
「……同じベッドに寝てたのに……」
「修行僧のような日々だったよ。あとは睡眠不足とね」
「……最初の時だって……」
「あれだけで終わりにする気はなかったから」
「……っ」
うてば響くように答えが帰ってくる。直樹はそこで何を言っていいか分からなくなってしまった。
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