抜粋
血が止まったことを確認すると、ナイフィスは小さなグラスを受け取り、そこにワインを注ぐ。ゆびさきで軽く混ぜると、うまそうにそれを飲み干した。これこそが、ナイフィスの主食。普通の食事をしないわけではないが、それらは全て嗜好に過ぎない。聖獣と呼ばれる彼にとって本当に必要な食事は、この自分を呼び出した少年の身体を流れる血。ただ、それだけ。
「……なんだってそんなものが良いんだろうね」
力抜けるほどの量じゃないから良いけどとため息をつきながら、レイスは完全に血の止まった傷口を布で拭い、荷物の口を締める。ほぼ十日に一度のこの出来事は、負担と言うほどではないとは言えナイフィスの正体をいつも思い知らされる。
「致し方あるまい。お前が我の楔なのだから。その力を分けて貰わねば霞と消えてしまうかも知れぬぞ?」
「冗談はよせよ」
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