抜粋

このリーフィという町は、ファリオスやリーフの町程ではないが、大きな道に面するとあって割合に栄えていた。人通りも多く、店の数も多い。田舎で老人達の間で育ってきたコロハにとって、そう言うところを歩くのはこのうえない楽しみだった。見るもの聞くものが新しくて、ただ歩いているだけで楽しい。
 果物を並べた店、薬を並べた店、肉を並べた店、野菜を並べた店、魚を並べた店、とコロハは飽きる事なく熱心に覗いていく。薬草の店では、熱冷ましと化膿止めを少し買い足していく。  そうして町をひとまわりした頃だろうか。ぐるりと回って元の所に戻ってきたはずなのに、彼女は知らない所に立っていた。急に不安にかられて慌てて道を戻ろう振り返ると、そこには先刻通ってきた少し騒がしい町並みがない。
「やだ……」
 コロハは少し身震いして、来たはずの道を戻ろうと足を踏み出す。だが、ほんの数歩足を動かしただけで足は重く、地面に縫いとめられる。そうして後ろから、何か冷たい物に包み込まれるような感覚。恐怖が、恐ろしい勢いで彼女の心を真っ黒におおう。
「いや---------------っ!」