抜粋
「……そんなに、気持ち悪いですか?」
情けない程の表情でうなだれる男を見ていると、圭もなんだか申し訳なくなる。だがそんな仏心が必要な訳はない。それはつまり男の言い分を受け入れる事になるのだから。
「人事なら気にしない。ただ俺は、誰とつき合うつもりもない」
ぽろりと本音がもれる。そう、男だからというだけではない。圭は得に誰とつき合うつもりもなかったのだ。他人との性交渉に対する嫌悪感は、そのまま恋愛に対する嫌悪感になっていた。特に恋人など作らなくとも、友人がいれば寂しいと言う事はない。その友人も、取りあえず事足りている。
「誰とも? 女ともですか? 今、つき合ってる人いないでしょう?」
うっかり言い当てられ、圭は頭に血をのぼらせる。なぜそんな事を知っているのか。昨日ではなく、もっと前に後をつけられでもしていたのだろうか。すでに家もばれているのでは? 大体、この相手は圭のフルネームを知っていた。
気味が悪いと思い出すと、どんどんと悪い事が浮んでくる。冷静さを欠いたところでいい事などありはしないのだが、家がばれているなら、私生活も。その中でも知られたくない事も……などとさらに思考は悪化の一途を辿る。あんなふうに告白されたりしなければ普通につき合う事も出来ないではなかっただろうのに。
「そんなの、お前には関係ない」
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