抜粋

「期待しちゃ、いけない……」
 と思うのに、心に浮ぶのはもしかしたら、まさか、といった淡い期待。でなければ自分の思いを知られ、気持ち悪がられはしなかったか、からかいのねたにされてしまったのではないか、というような後ろ向きな考え。だが史生がそんな事をするとは思いたくないから、勢い考えが最初の都合のよい所に戻ってしまう。
 もしかしたら。そう思うだけで体が震えた。ここずっと誰とつき合う事もなく、ただひたすらバイトに明け暮れていた篤史だ。精神的に誰かの支えを必要だと思う事はあっても、肉体的にそれを必要だと思う事はなかった。今の所精神的な支えには良太がなってくれていたし、淡白だと思い込んでいた性質は、一夜限りの相手を特に必要としなかった。
 なのに。
 まるでこれが初めての恋であるかのように史生の事を考えたら思いは止まらない。体が暑く火照り、咽が乾く。それがいいことだなんて思っていない。なのに、結局とめる事も出来ずにするりと下肢に手が伸びた。
 ジーンズをくつろげ、すでに張り詰めたものを解放する。それだけでため息が漏れた。あまりにもひさしぶりの行為は、篤史から徐々に思考能力を奪って行く。下着の中に潜った指があつくたぎったものに触れ、ゆるゆると刺激を送れば体から力が抜け、快感が走る。あっという間に熱が集まり、堪える間もなく白濁が溢れた。