春日部ロンドンデリィー
なにしろ北国、そんで港町とくれば誰だってサブちゃんの演歌とかだと思うだろう。
ましてやそこは林檎の花咲く町だと言うし、したらコレ、青森あたりじゃねぇの? と、わりに常識問題弱い俺とかでもピンとクル。 して、ハズレる。
『イギリス! しかもアイルランド! が、しかしタイトル ロンドンデリ〜 !』
―― ますます、わからねぇな。
俺にゃ、それ、日暮里銀座ロードとか、喫茶シャネルとかくれぇ、胡散臭ぇし、わかんねぇ。 あまつさえ、歌詞日本語、熱唱するのは町内ママさんズとなると、何もかもがフカシの香り。
『ま、あの微妙な音程がこう、オリエンタルチックっちゅうか沖縄テイストを感じさせて・・・』
―― つまり音痴だった。
あぁ、音痴だ、音痴じゃねぇかよ? ババァ、もうヤメレ・・・・・・。 俺らはかれこれ2時間近く、朝の美しいヒトトキを謎の なんちゃってロンドン民謡 に潰されている。 得体の知れないババァの歌声に支配されている。
『ま・・・・・・、な、カリカリすんな、な?』
イマナカモリは、腹這いでグググと伸び、灰皿を引き寄せた。 ついでに、指先で弾くように転がり寄せたジッポには、怪物君とフランケンが肩を組んでいる。 それは、先月、ミカワアユミがヴァレンタインに贈った物だった。
二食でカレーを喰うイマナカモリに、ミカワは 特注だよ! と、その小さな塊を渡した。 イマナカモリはたいして嬉しそうにもせず おう! と受け取り、洒落た包みのまま、無造作に尻のポケットに捻じ込んで、再びカレーに取り掛かる。 それを怒る風でもなく、ミカワは友達のテーブルへと戻って行った。
そんな風に無造作に、当たり前に紛れるように、イマナカモリとミカワは付き合っている。
『しかし、燃ゆる愛ッつうのは、どうしていつもクレナイなんだろうなぁ・・・クレナイ・・・命? 演歌じゃん・・・・・・ 』
―― 確かにな。
秘める愛、燃ゆる愛なんてのは大抵「クレナイ」なんだと思うよ。 けどさ、ソレ、まぁ、オマエには一生わかんねぇだろうなと、思う。 例えばオマエとミカワのソレが爽やかでナチュラルな色だとして、なぁ、そこに 『秘める』 だの 『燃ゆる』 だの、まして 『紅』 なんちゅう思い詰め色は出て来ねぇだろう? そんで、俺のソレがクレナイかどうかは知らねぇけど、でも、絶対、ファンシーとか爽やかとかじゃない。
イマナカモリが包みをベリリと剥し最初の一服をしたのは、15日の深夜、この、殺風景な6畳だった。 転がり込んだイマナカモリは当たり前のように冷蔵庫を開け、ポカリを1本飲み、テーブルの上、出しっ放しの喰い残しギョーザを『コレでも喰っとくか!』と偉そうにつまんだ。 そして『終電までの時間潰しに付き合えよ』と、すやすや眠る筈の俺のスウェットを捲り上げた。
そんな風に、雑然と、非日常に、俺たちは付き合っている。
『・・・・・・汚れなき君・・・処女か? いや、そりゃ物凄いブスか物凄いロリか、物凄いパパママ付きなんだろうな・・・・・・ヤダねぇ〜!!』
比較的真っ当なピアノの伴奏に合わせて、寝癖の猫ッ毛がゆらゆら揺れた。
汚れまくってる俺たちは、花に例えればなんだろうと思い、香りと言えばイカだろうと思い、あぁ嘘っ八だと思う俺は背中から脇腹を摩る手の平が、カサカサしてるのを感じた。
香りゆかしきキスは、夕べ喰ったオイキムチの香り。
所詮、俺たちとは、そんなだ。
:: おわり ::
2003.03.19 日記SSS
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