パースペクティブ
     
        


長廻しの風景、
スローモーションの波打際、灰色の濃淡に青と緑の点が二つ。


緑の点がすいと屈んで、骨みたいな流木を鉛の海にひゅいと放る。 流木の白は空に紛れて、音さえ響かぬ墜落をする。 留まる緑は水飛沫を受けて、引き潮の砂に足首を埋めた。 

だから、青は、ゆっくり、ゆっくり距離を縮めた。 細長い影、緑の影を灰白の沖のブイに見立てて、あそこまで行けば何かが変わる、あそこまでなら行けるだろうと。 砂粒だらけのデッキシューズを、青は引き摺り、緑に向かった。

左手に見る、低い空、寒々とした侘しい鉛の海原。 空の切れ端は海に飲まれ、きっと、ない交ぜに溶けるのだろう。 風に煽られ傾いだ掘っ立て小屋、砂に突き立てた竹竿が数本。 海岸線の終わり、点の進む先、あるのは、待っているのはただそれだけ。 止まったような時間軸、海鳴りは無責任に二人を急かし、緑と青はゆっくり近づく。 


『・・・ なぁ、俺らはさ、お友達とかに戻れんのかな?』

『・・・ 戻れねぇとこまで、来ちまったんだろ?』


長廻しの風景、
スローモーションの波打際、灰色の濃淡に青と緑の点が二つ。


背を向けた緑は、青の泣き笑いの表情を知らない。 唇を噛み締めた緑が、地平線の混濁を睨む決意を、青は知らない。 緑は、鼠色の砂を踵で小さく踏みしめ、後ろ手に、大きな手のひらを青に託した。 大きな手のひらに、ほっそりと骨ばった白い手のひらが、躊躇いつつ重なった。 

其処にある、唯一の温み。 
必ずしも消失点に向かうばかりでない、二つの点の道行き。 


無彩色の透視図に、青と緑の点が二つ。 

近づきすぎた二つの距離は、もはや計測すら難しい。



          :: おわり ::


2003.03.15 日記SSS