    
              
       
                      王様と馬鹿 
               
                  
       
       
       
            忌草森に行かねばならないと王様は言うので、 
                        わたしは嫌でしたがついて行くことになりました。 
       
       
      『あぁ、臭い、ここはなんて臭いんだろうねぇ、馬鹿・・・』  
 
      王様は、蜜花をちぎっては鼻に詰め、この酷い臭いをやり過ごそうとしてましたが、何しろ、純情なはぐれ肛門鳥は、今まさに交尾の真っ最中ですし、奴らのソレのおぞましさと言ったら! わたしは指の隙間から呪詛を吐きつけます。  
       
      呪われてしまえ!忌まわしい畜生め!   
       
      けれど、きぃきぃ騒ぐ二匹にそれはまったく通じませんでした。 
       
       
      『それ、馬鹿や、アレをあそこに突っ込んでおやり! あぁ、急げ、もうわたしは我慢ならない!』 
       
       
      そう言うと王様はわたしに、噛み付き鰯の燻製を差し出し、自分はマントに包まってしまいます。 ならば、しようがありません。 ぶちゅぶちゅと湿った音をたて肛門そっくりの口腔に、サスマタみたいな生殖器官を突っ込み合っているおぞましい二匹に、わたしはそっと近づき、それ今だ!と声を上げる王様に急かされ、黄緑の斑点を持つ「受仕様体」の苦味穴に、手にした燻製を一息に突っ込んだのでした。  
       
      と、空気を切り裂く悲鳴と、耳の奥がぶわんとする轟音。 やがて静寂の訪れた森、わたくしたちの前に立つのは、二年前から出奔中の第二王子、リモネルロ様その人でした。 そして、その傍らに寄り添う美しい娘。  
       
       
      『お父様、馬鹿、ようやく魔法がとけました。けれど、素敵な二年でもありました。見てください、我妻アナリヤです。 そしてアナリヤはたった今、わたくしの子を身篭りました!』 
       
      『あぁ! お父様とお呼びしてよろしいでしょうか? わたくしを娘と呼んでくださいますか?』 
 
       
      うれし泣きにおいおい泣いて、王様は王子と娘を抱きしめました。 そして、翌年、五日星の月、娘は美しい男の子を産み落とします。 祝福された赤ん坊は、必ず、その手に噛み付き鰯の燻製を持って生れるもの。 
 
       
      『良くやったね、馬鹿!』   『お手柄だぞ!馬鹿!』 
 
       
      つまり、わたくしが、金の馬鹿として、一生を幸せに過ごしたのはこんないきさつからなのです。 
                
       
               覚えておおき! なんでも勇気ですよ、息子達!!           
       
       
       
      2003.02.05 日記SSS 
      
           
           
       
      
              
                   
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